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第2章第6話「地下の野生児ガベイジ」

 ケイルク・ピークのダウンヒルレースに出場したトラッシュとラビ。いっぽう、デタン・デズの手先、忍者スイーパーのザザは、ヒビナを人質にトラッシュを捕らえようと策略する。
 かたや、サムライスイーパーのヨザムは、レース中のトラッシュを追いつめ、一騎打ちに。
 ザザはスイーパー追跡チームを出し抜き、トラッシュを狙ったことで、怒ったワグダによって退けられた。同じ頃、ヨザムはトラッシュとの死闘の末に敗れ、そのアートを失う。
 そして、ヒビナはラビから、トラッシュの記憶に欠落があることを聞かされる。トラッシュにまつわる謎は深まるばかりだった。

     ★     ★     ★

 レース翌日、ヒビナが目覚めたときには、ラビはもう姿を消していた。
 その事を、こちらも湖畔のキャンプを立つ準備をしていたトラッシュに告げると、「あいつはいつでもああだよ」と、意に介さない。トラッシュとラビは、真にお互いを理解し合っていることは、疑いようもなかった。
 自分では認めたくはないが、ラビに嫉妬していたかも知れない自分に、ヒビナは複雑な心境だった。だが、風のように現れ、さんざん引っかき回したあげく、またも風のように去って行ったラビ。ヒビナは、心のどこかにぽっかりと穴が空いたように感じていた。
 特に思うところは無かったのだが、ヒビナは知らず知らず、トラッシュをじーっと見つめていたらしい。
「・・・なんだ? どうかしたか、ヒビナ?」
「・・・ううん、なんでも・・・いや、ラビとアンタって、似てるなあって」
「ええっ!? オレって、あんなにハチャメチャか?」
「バカね! アンタの方がハチャメチャでしょ!」
 そういうとヒビナは、笑顔でその場を立ち去った。
 取り残されたトラッシュは、ポカーンとするだけだった。

     ★     ★     ★

 スイーパー・ブロンズ地区第4方面支部。
 テーブルには、フォルケが作った朝食が並んでいる。
 手作りカルツォーネ、エビとアボカドとブロッコリーのサラダ、じゃがいもとベーコン入りのスクランブルエッグ、ペンネのミネストローネ。
 ワグダとカーリカは、朝食をとりながら、相変わらずボヤいていた。
「ったくよー、トラッシュ一人に手こずるあたしらもあたしらだが、よりによってスイーパー内部から妨害が入るなんて、フォルケじゃないがカンベンして欲しいよな」
「まったくですわ。キリィ大尉の直命だというのに、ターゲットの横取りだなんて・・・」
「ま、スイーパーらしいといえばらしいんだが・・・お、このサラダ、美味いな」
「ワグダ少尉、そんな気楽な・・・」いつものようにフォルケは嘆く。
 三人はブツブツいいながらも、食事の手は止めようとしない。
「それにしても、イリーガルの発生といい、スイーパーの威信に関わる事件が起こりすぎですわ。そんなときにザザみたいなのが幅を利かすようでは、キリィ・キンバレンの権威も失墜と言われてもしかたがないですわ」
「心配をかけて、申し訳なく思う」

 ん?

 最後の一言は、男の声だった。低く力強く、なのに軽やかで涼しげな、大人の男の声。
 三人には聞き覚えのあるその声。
 ワグダ、カーリカ、フォルケは、食事の手をぴたりと止めて、そぉ〜っと声の主を振り返ってみた。
 そこにいたのは・・・
「キリィ・キンバレン・・・大尉!!」
 三人の声が見事にそろった!
「朝早くすまないな。食事中だったとは・・・おや、ずいぶんと美味そうな朝食じゃないか?」
 静かにたたえられた笑みとともに、クールで芯のある声がワグダたちの耳をくすぐる。まだ目覚めきっていないワグダたちの神経系を、ボルテージを上げた電流が走り抜ける。三人は、いすから針が飛び出したかのように超高速で起立すると、敬礼をキリィに送った。
「まあ、楽にしてくれ。朝食時に視察などど、わたしのほうが野暮なのだ」
「キリィ大尉、し、視察ってことは・・・」
「イリーガル追跡の状況をこの目で確かめたくてな。スイーパー二名がイリーガル捕獲に失敗した上、ダウンシフトしたとあっては、確認のひとつもしなければなるまい」
「ご、ごもっとも・・・」
 小さくなるカーリカ。
「とは言うが、ブロンズにはいろいろと用事もあってな。諸君らの顔も見ておきたかったのだ。それと、いい機会だ、延び延びになってしまったが、以前話したように、わたしの秘書を紹介しておこう・・・入れ」
 キリィに促され、第4方面支部のオフィスに、さっそうと一人の人物が入室した。
「あっ!!??」
 フォルケは、場もはばからず、大きな声を発してしまった。その声に、カーリカがビクッと反応してしまうほどに。
 入室した人物は、敬礼を切ると、自己紹介をした。
「はじめまして、ワグダ・パレスモ少尉、カーリカ・ビアレ少尉! わたしは、キリィ・キンバレン大尉の秘書、メイペ・シノリ予備隊員です!」
 はきはきと、そしてさわやかに、メイペ・シノリはあいさつした。
 フォルケは、予期せぬ再会に、度肝を抜かれてしまっていた。
「お久しぶりね、フォルケくん!」
 にっこりと、あどけない笑顔をフォルケに投じるメイペだった。

「まさかキミが、キリィ大尉の新しい秘書だなんて・・・」
「わたしだって驚いているわ。フォルケくんが、イリーガル追跡スペシャルチームの一員だなんて。同期として、鼻が高いわ」
「何言ってんだよ! キミの方がすごいことだよ! ボクなんて見習いもイイとこなんだから・・・」
「フフッ、謙遜しないでよ」
 フォルケとメイペは、第4方面支部の屋上で語らっていた。空は晴れ渡り、空気は澄んで、ケイルク・ピークがはっきりと見えた。
 キリィはワグダ、カーリカと、士官レベルでの打ち合わせということで、フォルケとメイペは席を外すよう指示された。その間は休憩となったのだ。
「なんでまた、メイペが大尉の秘書なんてことに・・・」
「キリィ大尉から直々に連絡があって」
「そこがすごいことだよ! やっぱ予備隊員とはいえ、同期の中ではダントツの成績だったからなあ・・・」
「そんな・・・そもそも、わたし、やることもなくなっちゃってたし、人手不足だから呼ばれたようなもので・・・」
「??やることもなくなってって・・・?」
「知らないの? 予備隊120期生、研修が中止になっちゃったのよ?」
「ええぇ〜〜っっ!!??」
「イリーガル問題があったから、それどころじゃなくなって・・・みんな、研修所待機だったり、わたしみたいに人手が必要なところにかりだされたり、いろいろよ」
「そうだったのか・・・」
「・・・それはそうと、残念だったわね、ヒビナさんのこと・・・」
「・・・ああ、キミも知ってたのか・・・知ってるよな」
「フォルケくんとヒビナさん、それとアザクくん・・・仲、良かったものね。そのアザクくんがイリーガルの容疑で、ヒビナさんはスイーパーを・・・」
「ヒビナは元気だよ。今はトラッシュ・・・イリーガルと行動をともにしてる。彼女なりに、考えがあってのことだろう」
「じゃあフォルケくんはヒビナさんと・・・その・・・敵対関係になっちゃうの?」
「そうだけど・・・メイペが心配してくれて、ありがたいよ。でも、大丈夫。ヒビナはいつかスイーパーに戻ってくると思うよ。あ、これは内緒の話」
「・・・フォルケくんがそう言うなら、わたしも信じるわ。だってあなたたち、本当の仲良しだったもの。それに、ヒビナさんはキリィ大尉を裏切るようなコじゃないわ」
 そう言ってほほえむメイペ・シノリ。あまり美人になびかないフォルケをしても、可愛い・・・と思ってしまった。
 フォルケは思う。メイペは、本当にイイ子なんだと。メイペにライバル心を燃やしていたヒビナは、予備隊在籍時には、決して彼女に優しく接していたわけではなかった。なのに、ヒビナのことをこんなにも気にかけているなんて。

 予備隊の入隊式で初めて会ったとき、フォルケはメイペのことを、こう思った。
『なんてはかなげな女の子だろう・・・』
 色白で華奢で、きわめつけの美少女ゆえに、入隊式の時から話題にはなっていた。なのに、彼女自身は、目立つことを避けるように、控えめな態度に徹していた、ように思う。
 だが、ひとたび研修が始まると、彼女の学力、教養、そして身体能力には、目を見張るものがあった。正直、フォルケは同期の間でも、けた違いだと感じていた。正規隊の即戦力としても十分ではないかと言う者もいた。
 それでも彼女は偉ぶることもなく、つねに奥ゆかしく、つつましい態度を崩さなかった。その完璧なる実力のほどからは、ときに近寄りがたいと思われている節もあったのに、彼女自身がその壁を望まないようであった。
 予備隊同期の女子、アマドア・テドナムが、一度だけ、射撃研修でメイペとともに満点で、同点一位になったことがあった。が、じつは練習のしすぎで右手首を痛めたアマドアに、メイペがテーピングを施してくれ、それもあっての一位だとアマドア自身の言葉で知れ渡り、その優しさ、フェアな態度から、男子からも女子からもますます人気を得たものである。
 たしかに、ヒビナもメイペに劣らぬ美少女で、人気もあったのだが、それはメイペと引き比べて、予備隊員としての実力で釣り合わないと考える男たちには、ヒビナには悪いが・・・欠点のあるヒビナの方が親近感がある、という考え方もあったことは否定できない。

「正直、キミの方がスイーパー追跡スペシャルチームに向いてるんじゃないかとさえ思うよ。まあ、ワグダ少尉やカーリカ少尉と馬が合えばの話だけど」
「え?」
「聞かなかったことにして・・・とにかく、メイペならもっと上を狙える実力はあるってことさ。今でも十分、上だと思うけどね」
「フォルケくんも・・・イリーガルを捕まえるようなことがあれば、大手柄でしょう? がんばってね!」
「お互いね」
 フォルケとメイペは、互いに笑顔をかわした。

     ★     ★     ★

「そのザザというスイーパーが、我々には何の打診も連絡もなく、イリーガルを手にかけようとした、というのだな?」
「そうです。事前に何らかのコンタクトがあれば、今回のように『不幸な事故』に巻き込まれずに済んだものを・・・」
 ワグダの「いけしゃあしゃあ」な報告に、カーリカは「プフッ!」と吹き出した。ワグダは苦虫顔で、カーリカに肘鉄を食らわす。
 だが、それはキリィも承知のことなのだろう。こちらも苦笑いで受け応える。
「ザザの背後に、誰かいる、と踏んでいるか?」
「もちろん」ワグダは応える。
「・・・おそらく、わたしたちの認識は共有されているようだ。実際、諸君らの頭の中にある『男』は、わたしの不在中にあいさつに来たそうだからな」
「キリィ大尉もお気をつけになった方が良いですわ。隙あらば仲間でも追い落とすのがスイーパーの常ならば、あの男もエースたるキリィ・キンバレン大尉をおびやかす気マンマンと見ましたわ」
 カーリカの言葉に、キリィは、
「気遣い、痛み入る。だが、それは諸君らも同じと考えるべきかな? わたしを追い落としたいという点で・・・」
「ご、ご、ご、ご冗談を・・・」
「そこで言いよどむと、図星に聞こえるぞ? カーリカ」
「うるさいわねっ!」
「はっはっは・・・わたしに隙があるようなら、そうなってもしかたあるまい」
 あくまでも余裕の、キリィ・キンバレンだった。
 だが、今は、そこではハッキリと明言しない「男」、デタン・デズ・デギウスが、キリィやワグダたちにとっては共通の脅威であることは、互いに認識していた。
 デタン・デズが、イリーガル、すなわちトラッシュを狙う真の理由はなんなのか?
 失墜した自分の地位を取り戻す汚名返上か、それとも、スイーパーの脅威たるイリーガルを味方につけ、再びスイーパーを支配せんとする策略か?
 現時点では、キリィたちにもそれは謎のままだ。

     ★     ★     ★

 ブロンズの地を、西へ西へと進むトラッシュのキャンピングカー。
「ラビも一緒に来ればいいのにさー。どうしてサヨナラも無しに旅に出ちゃうんだろ」
 エトワがふくれっ面で言った。トラッシュは、
「ラビは一人が気楽なのさ。誰とでも仲良くなる割に、行動は一人でしたがる・・・そういうヤツなんだよ」
「トラッシュは、寂しくないの?」
「なんで? 言っただろ、アイツとはくされ縁だから、またどっかで会えるさ。そんな気がするんだよ」
 すると、ヒビナが口をはさんできた。
「ラビも同じようなこと、言ってたわよ? それに、トラッシュのことは兄弟みたいなモンだって。だからお互い寂しくはないんじゃない?」
「そっかあ・・・じゃ、ヒビナも安心だね?」
 エトワの言葉に、ヒビナはアセった。
「な、なんで、あたしが安心なのよ!?」
「だってトラッシュとラビ、チューしたり一緒にお風呂はいったり、ヒビナも夫婦みたいって言ってたじゃん! でも、兄弟だったら、ヒビナにもまだチャンスはあるってことでしょ?」
「チャ、チャンスって、何がどうなるっての!」
「ぶっ、タハハハハハハハハ!」
 シャマルは笑いをこらえきれなくなり、ついには吹き出した。
「何もおかしくないっ!」赤い顔のヒビナだ。
 トラッシュはトラッシュで・・・
「エトワ、お前、ませたこと言い過ぎ」
「そんなことないもん!」
「あのな、ヒビナはキリィ・キンバレンっていう、れっきとした思い人がいるの! オレとヒビナは、友達だから! エトワもシャマルもコジェもラビも、オレにはみーんな大切な友達なんだよ!」
 その言葉に、カッと目を見ひらいたのは、ヒビナだ。
 トラッシュを見る目が、明らかにキツさを増してくる。
 ヒビナにとってトラッシュの正体が、未だに、スイーパー予備隊の同期生、アザク・ラガランディではないのか、という疑惑は、晴れていない。ましてや、ラビからトラッシュに「記憶の空白期間」があることを聞かされたばかりだ。
 そのアザクに、かつて告白されたことが、ヒビナの困惑の現況であることは否定できない。
 もちろん、トラッシュにそれを確かめたところで、彼がアザクであることは証明できない。事実かどうか以前に、記憶があてにならないのだから。
 それはわかっている。
 わかっているが、ヒビナの感情としては、納得できないのも事実なのだ。
 そんなところへ、トラッシュの「友達発言」が、ヒビナにはカチンときた。
「あ、あのねえ、トラッシュ!」
「んん? どした?ヒビナ」
 その時だった。

 ドウウウンンッッ!!

「おわああぁぁっっ!!??」
 トラッシュが、素っ頓狂な声を上げた。
 西へ向けて走り続けていたキャンピングカーは、とつじょ、ガクンッ!と、いや、「ドウウウンンッッ!!」と「落ちた」!
 地面が抜けて、車体が30センチメートルほど落下したのだ。
 それだけではなかった。

 ドウウンッッ! ドウウウンッッ!! ドウウウウウンンッッ!!

「のわっ!? ひええっ!? ぬああああぁぁぁっっ!!??」
 何段階にも渡って、地面が抜け続け、キャンピングカーは下へ下へ、地面に潜っていった。
 数十センチ間隔の空間を空けて、薄い地盤がパイ生地のように重なっていた所に、車体を落としたような感覚。地盤を割りながら、クルマはどんどん地下へと潜っていくのだ。
 その薄い地盤を落ちながら、キャンピングカーは加速していく。落ちるごとに勢いがついていくのだ。
「と、トラッシュ! なんとかしなさいよ!」悲鳴に近いヒビナの言葉。
「なんとかったって、止めようにもどんどん落ちてくんだよ!」
 そのうちに、地盤の間隔が広がっていき、キャンピングカーが走行できるほどの高さになった。

 ドンッ!

 とつじょ、落下は止まった。だが、着地のショックがそれまでより強く、トラッシュはキャンピングカーの天井で頭を打った。
「あたああ〜〜〜っ!」
「・・・今の感触からして、どうやら地盤の固いところに行き着いたんじゃないか?」
 シャマルが分析する。
「よかったあぁ〜、これで・・・」ヒビナがホッとするのもつかの間、
「・・・いや、そうでもないみたい」トラッシュが、苦笑い気味にそう言った。
「はあ? どういう・・・」
 キャンピングカーの屋根に、パラパラ・・・と、何かが当たる音が聞こえてくる。
 と、キャンピングカーの周囲に、ドサッ!ドサッ!と、土くれがかたまりで落ちてくる。
「・・・上の地盤が、落ちてきてるんだ!」
 シャマルが叫んだ!
 トラッシュが、急ぎキャンピングカーを発進させる!
「生き埋めになっちゃう!」ヒビナが一転してヒステリックに騒ぐ。
 だが、路面はだんだんと下り急斜面に変わっていった。頭上からは割れた地盤が落ちてくる中、立ち止まれば生き埋め、走れば急斜面を加速しながら、先の見えない道に突っ込まなければならない。
「こうなったら運を天に任せて、走るしかない!」
「アンタはいつでも、運を何かにまかせてるじゃないのおおっっ!!」
 トラッシュのいつもの勢いだけの言葉に、ヒビナがつっこんだ。
「うりゃあああああぁぁぁっっ!!」
「もお、イヤアアアアアァァァッッ!!」
「キャハハハハハハハハ!!」
「エトワ、はしゃぐなあああぁぁぁっっ!!」

 すると、急斜面はとつぜん終わり、地面は平坦になった。だが、そこは大きな水たまりになっていた!

 バッシャアアアアァァアアアァァンッッ!!!!

 キャンピングカーは盛大な水しぶきを上げ、ようやく止まった。水しぶきは雨となって降り注ぐ。水たまりは大した深さではなかったようだ。
 いつの間にか、落盤も止まっていた。
「ハア、ハア・・・なんとか、命拾いした?」肩で息をするトラッシュ。
「・・・でも、ここはなんなの? どこなのよ?」ヒビナが震えながらつぶやく。
 サイドウィンドウを開け、トラッシュは、車外の様子を見た。あまりの暗さに、ヘッドライトを灯してみる。
 そこは、天井の高さ10メートルほどの空洞だった。背後に今滑り落ちてきた急斜面があるが、落ちてきた「穴」ははるか遠くにあるのか、地上の明かりが見えない。
「・・・地底の洞窟、ってとこか?」
 シャマルの言葉に、
「ど、ど、ど、どうすんのよ! ここから脱出できるの? 地上に戻れるの?」
「さあ・・・」気のない返事のトラッシュ。
「さあじゃないわよ! あたしたち、閉じ込められたんじゃないの? 一生ここから・・・」

 その時だった。

 カアアアァァァッッ!!

 上から、そして横から、光が当てられた! 一瞬まぶしさに目を細めるトラッシュたちだが、やがて目が慣れるにつれ、状況が少しずつ見えてきた。
 洞窟の天井、そして壁に、ランプがしつらえてあったのだ。まるで、炭坑の跡地のようだ。
 つまり、この洞窟には、すでに人がいる。その誰かが、明かりを灯したのだ。
 それが誰なのか? 考える時間は・・・必要なかった。
「お前たちは何者だ! スイーパーの手先か!?」
 十人ほどの人が、ヘルメットをかぶり、手にツルハシを持って、キャンピングカーを取り囲んでいた。
 よく見ると、それらは全て、5歳から10歳ほどの子供たちだった。

     ★     ★     ★

 スイーパー・ブロンズ地区第4方面支部を後にした、キリィとメイペ。スイーパー仕様のSUVを駆り、次なる目的地を目指す。
「ひさびさに同期と話して、どうだった?」
 ステアリングを握るキリィの言葉に、メイペは応える。
「はい、とても・・・1年もたっていないというのに、研修所時代が懐かしいです」
「フォルケは確かに優秀だったが・・・上司があの二人では、苦労しているようだな」
「でも、イリーガル追跡スペシャルチームだなんて、すごいです、フォルケくんは・・・」
「どうだ? キミも現場に出てみるか、メイペ?」
「えっ!?」
 キリィの突然の申し出に、メイペが面食らった、その時。

 キキッ!

 突然、キリィは、SUVを停めた。助手席のメイペの体が、ガクンと前後する。
 SUVの鼻先に、人が立っていたからだ。
 メイペは、その人物を見て、
「あっ・・・!」
「よう、エース殿。可愛い秘書とドライブかい?」
 幹線道路の脇にバイクを停め、その横に立っている黒髪の精悍な青年。黒のスイーパー制服を着ている。
「デタン・デズ中尉・・・」
 そう、キリィがその名を呼んだ、デタン・デズ・デギウス中尉その人が、そこにいた。
 キリィは、硬い表情で、
「わたしの留守中に、メイペにあいさつをすませたそうだな」
「ははっ、その節は失礼した。許せよ、メイペ・シノリ」
「いえ・・・」メイペもまた、表情が硬い。
「メイペにも言ったが、キリィ、お前にもあいさつしておかねば、と思ってな。ブロンズに視察だというので、来てみた」
「部下の様子を見に来た、というわけではないのか?」
「部下? 何のことだ?」
 しらばっくれるデタン・デズだ。
「とにかく、このオレが現場に戻ったからには、昔のように張り合おうぜ。スイーパー同期では、お前くらいしか歯ごたえのあるヤツは残っていないからな、キリィ」
「ああ、そうだな。残りの同期は、皆、どこかへ姿を消してしまった」
 ピクリ、と、デタン・デズの眉が動いた。
「はっはっは・・・確かにそうだな。実力勝負のスイーパーの世界、力でのし上がるか、蹴落とされて消えて無くなるか・・・いずれにせよ、水が入ったが、お前のようなライバルとまた現場でしのぎを削るのを、楽しみにしてるぜ」
「ライバル?・・・そうか、ライバルか・・・」
 フッ、と、キリィは薄笑みを浮かべた。
「・・・何がおかしい?」
 逆に急にそれまでの薄笑みが消え去ったデタン・デズが、トゲトゲした物言いをした。
「いや?何もおかしくはないが?」
「・・・オレが干されている間に、キリィ・キンバレンにはライバルなどというものはいなくなってしまった、とでも?」
「勝手な勘ぐりも、お前の自由だ。デタン・デズ」
 デタン・デズは、あからさまに不機嫌な表情を隠さなかった。
「・・・ふん、さすがにキギ・ラエヴェ隊長の覚えもめでたいキリィ大尉、出世街道まっしぐら、視界良好という訳か。うらやましい話だ」
 デタン・デズはきびすを返し、ふたたび薄笑みを浮かべると、かたわらのバイクにまたがり、モーターに火を入れた。
 ヘルメットをかぶり、デタン・デズは、
「また会おう、キリィ・キンバレン。それまで・・・お互い、命だけは粗末にするなよ」

 シュオオオオオンンッッ!!

 モーター音を立てて、デタン・デズのバイクは去って行った。
 その後ろ姿を眺めながら、キリィは、心につぶやいた。
『独り相撲のクーデターに失敗して、わたしとキギ隊長に逆恨みか・・・相変わらず、小物だな、デタン・デズ』
「キリィ大尉・・・」
「気を悪くするな、メイペ」
「いえ・・・」
 SUVを発進させるキリィ。
『平静を装っているつもりだろうが、わたしとキギ隊長への憎悪があふれかえっているのが丸見えだ、デタン・デズよ・・・キギ隊長に対抗するのなら、おそらく、ヤツの目論見は、もう一人の重鎮、ザイラ・ファギレルに取り入ることだろうさ』
 幹線道路を、すべるように走るキリィのSUV。キリィの瞳の奥に、鋭利な刃物のような光が、ぎらりと光る。

     ★     ★     ★

 石窟のような地下の洞穴。そこは、深さ何メートルかも定かではない。だが、驚くべきことにそこには、数十人の人々が暮らしていた。ツルハシを持った子供たちに捕まり、連行される途中でトラッシュたちは、この地下世界に生活する人々の姿を目の当たりにし、驚嘆していた。赤ん坊から年配者まで、もちろん男女問わず、様々な年代の人々がいる。
 トラッシュ、ヒビナ、シャマル、エトワは、後ろ手に縛られて、ツルハシの子供、10歳くらいの少年に追い立てられる。
「言っとくが、お前らを縛っているロープには、アートは効かないぞ! お屋形さまが結界を張っているからな!」
「結界を? ロープに?」
「無駄口をきいてイイとは言ってない! だまって歩け!」
 トラッシュは、小声でヒビナに、
『ホントかよ、アートが効かないなんて・・・』
『・・・ホントらしいわ。あたし、さっきからこのロープ、抜けようとしてるんだけど』
 ヒビナのアート、物質の密度をコントロールするワザで、ロープによる拘束などは簡単に抜けられる。だが、ツルハシの子供が言うように、それはできないようだ。
『何者なんだ、お屋形さまって・・・』トラッシュが、そうつぶやいたとき。
「あっ、お屋形さま!」
「なぬーーーーっっ!?」
 トラッシュたちの眼前に、ゆらりと、男が現れた。
「おう、お前たち、今日の獲物だぞ!」
 背中に、鹿を背負っている。手には弓矢。そして男の装束は、麻のマントに、綿のターバン。
 顔を隠す布地の奥から、ギラッと、赤い瞳が輝く。
「お、お、お、お前・・・赤目のガベイジ!」
「なんで、なんでここに!?」
 トラッシュとヒビナが、声を裏返した。かつてガベイジと戦ったシャマルも、警戒心をあらわに身構える。
 すると、ガベイジは、ドサッと、鹿を落とすと、赤い目をむいて、
「ヒビナか? どうしたんだ、ヒビナ!」
「・・・オレは無視ですか?」
 いぶかしげなトラッシュをよそに、ツルハシの子供は、
「こいつら、迷い込んだらしいんですけど、もしかしてスイーパーじゃないかと」
「だからあ! オレたちはスイーパーじゃないって!」
「うるさい! オイラたちを狙ってるスイーパーが、身分を明らかにするわけ無いだろ!」
「君らを狙ってる?」
 ツルハシの子供と、トラッシュの掛け合いなどよそに、ガベイジは、
「コイツらを牢に入れとけ! それから・・・この細っこい女!」
「あたしはヒビナだってば! アンタさっき名前で呼んだじゃない!」
「コイツはオラの部屋に連れてこい!」
「えええええぇぇっっ!! イヤよ! 何であたしだけ!」
 ヒビナが金切り声を上げる。
「お、お屋形さま? そうですよ、なんでこいつだけ?」
「こいつはな・・・」
 ガベイジは、ヒビナをなめるようににらみながら・・・
「こいつは、オラの嫁にする!」

 一瞬、シーーーーン、と、静寂があって・・・

「ぬあああああんんだっってえええええええぇぇぇええぇえぇえ!!!???」
 誰が誰だかわからないくらい、三、四人が同時に叫んだ!

     ★     ★     ★

 洞穴の奥に、天井の低い横穴がいくつかあり、その一つに、トラッシュ、シャマル、エトワは閉じ込められた。木組みのがっしりとした格子が入り口をふさいでいる。つまりは牢屋だ。
 格子をはさんで、牢の外側に、ツルハシ少年と、ほかに二、三名の子供たちが、トラッシュたちをにらみつける。
 ツルハシ少年は、
「この格子にも、お屋形さまの結界が張ってあるからな! アートは効かないぞ!」
 シャマルはぼやく。
「あ〜あ、なんだってこんな目にあわなきゃならんのだ・・・」
「エトワ、けっこう楽しいけど?」
「はいはい、エトワは何でも楽しいよな・・・」
「なあシャマル、ここはどこなんだ? まさか、下の階層に落っこちたのか?」トラッシュの問いに、
「アホ言うな、いくら何でも階層の境目がそんな薄っぺらいわけ無いだろ!」
「じゃ、ブロンズの地下に、なんでこんな空洞があるんだよ」
「知らねえよ! だが、ガベイジがいるということは、アイツのアートが関係しているかもしれんな」
「どういうこと?」
「ほら、あいつのアートは地面に作用していただろ?『大地のアート』とでも言うと、格好良すぎるが・・・」
 ツルハシ少年など眼中にないかのような、トラッシュとシャマルのやりとりに、
「無駄口を叩くな! お前らは囚人なんだぞ!」
 業を煮やして、牢の前のツルハシ少年が叫ぶ。が、トラッシュは悪びれもせず、
「まあ、そういうなよ。オレの名はトラッシュ! キミ、名前は?」
「お前らに名乗る名前なんかあるか!」
「ガベイジみたいなこと言うんだな・・・じゃ、ツルハシくんでいいか」
「何を勝手な・・・」
「なんでガベイジが『お屋形さま』なんだい? ツルハシくん?」
「やめろよ! わかったよ! オイラの名前はパビク! パビク・レプレ!」
「パビクね、ずばり聞こう! スイーパーを忌み嫌ってるみたいだけど、それはキミらの階層と関係ある?」
 ギクッ!
 パビクの表情が、ハッキリと「図星」を表した。
 シャマルは、傍らで聞いていて、
「トラッシュ、お前、ときどき鋭いこと言うんだな・・・」
「シャマルもそう思わない?」
「当然だろ。こんな人目に触れない地下で暮らしてて、スイーパーを警戒してるとなれば、階層侵害の追求から逃れていると考えるのが自然だ」
「ガベイジもヨソ者だったしね」エトワまでも、トラッシュたちに追従した。
「お、お前ら・・・」
 明らかに焦りの色を隠せないパビク。
 トラッシュは、格子に近づいて、パビクに語りかける。
「で、なんでガベイジがお屋形さまなの?って質問の答えは?」
「う、うるさい! 調子に乗るな!」
 パビクは、ツルハシを振り上げ、格子越しにトラッシュに振り下ろした!

 ガキイィッッ!!

 ツルハシの先が格子の穴越しに、トラッシュに突き刺さる! と思った瞬間。
 トラッシュはツルハシの先をつかんでいた。パビクは驚き、ツルハシを引き抜こうとするが、トラッシュとの力比べには勝てず、抜けない。
「ち、ちくしょう! 離せ、離せよ!」
「は〜な〜さ〜な〜いっ!」
「こんなことしたって無駄だぞ! おまえらは逃げられない!」
「パビクもね!」
「なにっ!?」
 トラッシュは、格子の穴越しにもう一方の手を伸ばし、パビクのえり首を捕まえる! そしてツルハシから手を離すやいなや、両手でパビクを格子越しに裸締めにした!

 バリバリバリバリッッ!!

 当然、格子に張られている結界が、電撃となってトラッシュとパビクにショックを与える!
「ぐああああっっ!! お、おまえバカか! 自分にも電気ショック食らうだろ!」
「オオオオレは仕事柄、でで電気には強いの! さあ、はたして、どどどどっちが保つかな?」
「ぎゃああああっっ!」
 エトワは目を丸くしてそのさまを見ているが、シャマルはトラッシュの無茶はいつものことと、呆れている。
「オレたちを、じじ自由にしろ! おおオレたちは、ススススイーパーじゃない!」
 それをオロオロしながら眺めている、ほかの子供たちは・・・
「お、おい、このままじゃパビクが・・・」
「おまえ、お屋形さまを呼んでこい!」
「わ、わかった!」
 一人の子供が、駆けだしてゆく。
「そそそそんなヒマ、ああああああるのかなー!」トラッシュは叫ぶ。

     ★     ★     ★

「イヤアアアアッッ!!」
 洞窟の中の一室。むしろが敷いてあり、ちゃぶ台と寝袋が転がっているだけの殺風景な部屋だ。一応、壁とドアはしつらえてある。
 その部屋の中を、ヒビナは逃げ回っていた。
 追いかけているのは、ガベイジだ。
「近寄んないでよ! 不潔! ケダモノ!」
「おまえはオラの嫁になるのだ! オラの子を産むのだ!」
「誰がそんなこと決めたのよ! 絶対絶対、ゼーッタイお断りよ!」
「子を産むといっても、試験管が産むんだから、おまえのハラを痛めることはないだろ! ケチケチすんな!」
「ケチの基準がわかんない! バカじゃないの! アンタ!」
 ドタドタと、部屋中を逃げるヒビナだ。
 と、そこへ。

 ドンドンドン! ドンドンドン!
 ドアをノックする音が。

「なんだ! 今取り込み中だ! ひとの愛の巣に割り込むな!」
「なにが愛の巣よ!」
 ドアの外から、子供の声が聞こえる。
「お、お屋形さま! 囚人が、パビクを捕まえて暴れてます!」
「!! なんだと!?」
「トラッシュね!」
 ガベイジがドアを開けると、このときとばかり、ヒビナはガベイジの頭を踏みつけて飛び越え、脱出した!
「あっ! コラ! 逃げるな!」
 ヒビナは、洞窟の通路を疾走する。追いかけるガベイジ。
 と、通路の曲がり道で、ドンッ!と、ヒビナは出会い頭に誰かと衝突した!
 それは・・・
「トラッシュ!」
「あれ?ヒビナ?」
 ヒビナの目がウルウルしたかと思うと、ひしっ!と、トラッシュの首根っこに抱きついた!
 シャマルが、「ヒュ〜」と冷やかしの口笛を吹く。
 エトワも真似しようとしたが、エトワは口笛が吹けず、フューフューと空気が漏れる音しかしない。
「お、おい、ヒビナ!」
 突然のことに、顔を赤くして驚いているトラッシュ。
 すると、そこにガベイジが追いついてきた!
「な・・・なにしてやがる、このヨソ者! ひとの嫁を!」
「だからあんたの嫁じゃないッ!」
 ヒビナが叫ぶ。
「そうだぞ! ヒビナには、他にちゃーんと心に決めたひとがいるんだ! なっ?ヒビナ」
「えっ! あっ? うう・・・」
 このシチュエーションで、トラッシュはまたしてもキリィのことを言っているのだろうが、ヒビナは空気読めなさすぎのトラッシュに、むしろ自分のほうが空回りしているように感じた。
「そんなのオラが認めねえ! ヒビナはオラの嫁になるのだ!」
「・・・そうとう気に入られてるな」シャマルがニヤニヤしながら言う。
 そこに、ふらふらした足取りで、パビクが現れた。
「あっ、お屋形さま・・・も、申し訳ありません!」
「まったくだ! おまえがオラの役に立ちたいと言うから、牢番を任せたのに!」
「すっ・・・すみません・・・」
「おいガベイジ、そもそも、なんでオレたちはおまえに捕まらなくちゃならない? おまえ、オレたちがスイーパーじゃないことは知ってるだろ! おまえらがヨソ者だからスイーパーから逃げて、こんな地下洞窟に隠れているのは自由だが・・・」
「なんだと? オイラたちはヨソ者じゃないぞ!」
 と、パビクが叫んだ。
「じゃあ、なんでスイーパーを目の敵にする? ブロンズの住民だったら、むしろスイーパーは味方だろ!?」
 トラッシュの言葉はもっともだ。
「うう・・・」言葉に詰まるパビク。
「ヨソ者に何がわかる!」ガベイジは、パビクをかばうように叫ぶ。
「だから、おまえもヨソ者だろう!?」
 トラッシュがそう返したときだった。

 ドドドドドドドドドドドドド!!!

 地鳴りがして、地底洞窟は、揺れ始めた!
「うわっ・・・おい、地震か!?」トラッシュが泡を食っていると、
「違う! スイーパーのやつらだ!」
 ガベイジが吠えた。

     ★     ★     ★

 地上には、スイーパーの特殊部隊が大挙して出動していた。
 五台の特殊車両が稼働している。それは、地面に巨大なハンマーを叩き付け、地下を揺らしているのだ。
「ヤツらをあぶり出すまで、続けろ!」
 指示を出しているのは、スイーパー・ブロンズ地区第1支部所属、ガドマール・ゾラスト士長。30代後半の精気あふれる、赤銅色の肌の、ガッチリした体格の男だ。
 そこには、第1支部から第3支部まで、総勢20名が出動していた。
 なぜか、ワグダ、カーリカ、フォルケもいた。だが、ワグダは無骨な6輪機動装甲車両の屋根にあぐらをかき、作戦に参加しているつもりはないようだ。
「なんだかなあ・・・もうちょっと面白いもんが見られると思ってたんだが」
「ヨザムまでやられて、わたくしたちには後がないというのに、何でこんなとこにこなきゃならないんです? ワグダ!」と、カーリカは不機嫌だ。
「まあ、そう言うなよ。第4支部にも出動命令が出たのに、誰もいないから、暇つぶしにきたんじゃないか」
「最終的に『暇つぶし』って言っちゃってるじゃないですか・・・」と、フォルケ。
 ようするにワグダは、単なる野次馬だったようだ。
 すると。

 ドオオオオンンッッ!!

 地面の下から、「土の柱」が突き出し、五メートルほどの高さでそびえ立った。その頂点には、ガベイジがいた。
「おまえら、性懲りもなく! またオラに蹴散らされたいか!」
 その言葉に、ガドマールはたじろぐ。だが、すぐに気を取り直し、
「おい、ガベイジ! 今日こそは階層侵害者を引き渡してもらうぞ! その上で、お前の階層も調べさせてもらう! 観念しろ!」
 七名のスイーパー隊員が、ライフル型スタンガンをかまえる。
 ワグダは、身を乗り出し、
「ほれ! なんか、面白そうになってきたぞ? こうでなくちゃな!」
 ガベイジが作った「土の柱」をよじのぼり、パビクは地上の様子を、身を隠しながら伺う。
 すると、その後をついてきた者がいた。
「なあパビク、コレはいったいどういうことだ?」
 トラッシュだ。
「うわああっ! お前、いつの間に?」
「やっぱりお前たちは、階層侵害者なんだな? 今のスイーパー隊員の話だと、ガベイジに引き渡しを要求している。てことは、ガベイジがお前らをかくまっているということか?」
「お前らなんかに、お屋形さまの慈悲深いお心なんか、わかるもんか!」
「それ、ほとんど答えだぞ?」
「うるさい! 勝手についてきて、お屋形さまのジャマするなら承知しないぞ!」
 二人の会話をさえぎるように、ガドマールの指示が飛ぶ。
「撃ち方、用意!」
 スイーパー隊員たちがガベイジに狙いを定め、スタンガンの引き金に手をかける。
「撃てーッ!!」

 バリバリバリバリバリバリッッ!!

 引き金を引くと、スタンガンの銃口から、電撃がガベイジ目がけ、発射された!
 だが、ガベイジは「土の柱」から、高くジャンプすると、マントの下から、直径50センチメートルほどの、円盤状のものを取り出した!
 そこには、キツネの絵が描かれていた!
 それを目にしたワグダ、そしてトラッシュが、ほぼ同時に
「あ、あれは!?」

 スタンガンの電撃は、ガベイジの円盤に当たり、跳ね返された。それは地上に向かって飛び散り、スイーパー隊員たちは慌てる。
 ガベイジの円盤には、ロープのようなものが結びつけられている。円盤の縁に、20センチメートルほどの間隔で一本のロープの両端が結んであるのだ。
 ガベイジは空中で円盤の上に飛び乗ると、そのロープをつかむ。その姿は、雪そりに乗っているかのようだ。
 そして、円盤に乗ったガベイジは、地上に落下すること無く、空中を飛んだ!
「あ、あれは・・・」ワグダは驚嘆の目でそれを見る。
「まさか・・・ウィンドボードと同じ!?」
 トラッシュもまた、驚きながらガベイジを仰ぎ見る。
「お屋形さまのウィンドスレッジだ! 風さえあれば自由に飛べる!」
 パビクは、誇らしげに言った。
 ガベイジのウィンドスレッジは、スイーパー隊員の一人に向かって飛んでいくと、

 ガキィッ!!

 隊員のスタンガンを蹴り上げ、奪い取った。空中でそれをかまえたガベイジは、地上のスイーパー隊員目がけてスタンガンを乱射する!
「うわああぁぁっっっ!!」
 逃げ回るスイーパー隊員。何人かはスタンガンで応戦するが、自在に飛び回るウィンドスレッジを捕らえることが出来ない。
 そして、ガベイジはウィンドスレッジから飛び降り、着地のタイミングで、その拳で地面を殴った。ガベイジの赤目が輝いている!

 ドオオオンンッッ!!

 地面から巨大な「土の拳」が突き上がり、それはハンマー車両の真下から車体を突き上げ、ひっくり返す!
「なんだああああっっ!!」
 ガベイジの「大地のアート」、それを初めて目にして、ワグダ、カーリカ、フォルケは驚きを隠せない。
 それだけではない、トラッシュのウィンドボードと同じ原理と思われる、ウィンドスレッジを自在に乗りこなすガベイジ。ワグダは、ラビに続いて、またしても「トラッシュもどき」な人物の出現に、驚愕を受けていた。
「トラッシュみたいなヤツが、そんなに何人も現れるなんて、どうなっちゃってるんだ!? この世の終わりでも来てるってのか?」
「あの赤い目のアート使いも、イリーガルなの?」
 カーリカも、そのこめかみに汗をにじませ、端正な顔を歪める。
「土の拳」は五台のハンマー車両全てを転倒させた。車両から、慌てて脱出するスイーパー隊員たち。
「何度来ても懲りないヤツらめ! おまえらはしょせんオラの敵じゃない! 二度とオラたちを追い回すんじゃねえぞ!」
 そう言って、勝ち誇るガベイジ。
 すると、そんなガベイジの背後から、そぉーっと近づく者がいた。小脇にスタンガンを抱えている。ガドマールだ。その銃口をガベイジに向ける!
「お屋形さま! 危ない!」
 その声の主はパビク。ガベイジは、声に反応して振り向いた。だが、ガドマールはすでに引き金に手をかけていた。今度はガドマールが勝ち誇った表情で・・・
 と、その時。
 パビクが、右手をガドマールの方向へ向けて突き出した。パビクの目が、「銅色」に光る!
 とつじょ、ガドマールの足下に、直径1メートルの穴が、ぽっかりと空いた!
 ガドマールは、
「ぬわあああぁっっ!!??」
 と奇声を発して、穴に落ちていた。ガベイジは、すかさずガドマールのスタンガンを蹴飛ばし、さらに地面を力強く踏みつける!
「土の足」が、ドオオオンンッッ!!と突き出し、ガドマールを空高く蹴っ飛ばした!
「あえええええぇぇえっっっ!!??」
 ズドオオオォォッッ!!
 地面に落下したガドマールは、目を回して気絶した。
 トラッシュは、パビクに驚きの視線を注ぐ。
「パビク、おまえ、アートが使える!? じゃあ、ヨソ者じゃない、ブロンズってのは本当だったのか!」
 パビクは、苦虫を噛みつぶした表情をしていた。
 いっぽう、トラッシュの声は、聞かれたくない者に聞かれていた!
「あああああっっ!! トラッシュ!?」
 フォルケが、トラッシュを指さして叫ぶ!
「なにいいいっっ!!??」
「イリーガルが、こんなところに!?」
 ワグダとカーリカが、トラッシュに視線を送る!
「ま、まずい!!」
 トラッシュは、「土の柱」を滑り降り、地下の洞窟へと戻った。
「待て、トラッシュ!」
 トラッシュを追おうとするフォルケ、ワグダ、カーリカ。
 すると、ガベイジの目が赤く輝き、その右手の平をフォルケたちに向けて、突き出した!
 フォルケたちの走る地面が、大きくめくれ上がり、三人は、とつぜん急斜面を登ることになった。
「あれええええぇぇっっ!!??」
 さらにめくれ上がる地面は、三人を海苔巻きのように巻き込むと、そのままどこかに転がって行った。
「なんなんだあああぁぁあっっっ!!??」
 そしてガベイジ、パビクは、ズズズズッ!と、「土の柱」ごと地面の下に潜っていった。
 目を回しながら、ワグダは、
「赤目のトラッシュもどき・・・また一人、やっかいなのが・・・」

     ★     ★     ★

 再び地下の洞窟に戻った、トラッシュ、ガベイジ、パビク。
 と、そこへ、
「パビク!」
「パビク、無事だったのね! ケガはない?」
 二人の、30代の男女が現れた。その二人を見て、
「父ちゃん、母ちゃん・・・」
 パビクがそう言った。つまりこの三人は親子なのだ。
「パビクの父ちゃんと母ちゃん? 家族でここにいるっての?」
「当たり前だろが。家族が一緒に暮らしてて、何がおかしい」
 トラッシュの言葉に、ガベイジが答えた。
 そこへ、シャマル、ヒビナ、エトワも駆けつけた。
 トラッシュは、
「ガベイジ、おまえはお屋形さまなんて呼ばれて、ここで何をやってるんだ? あのスイーパーは、階層侵害者を引き渡せなんて言ってた。なんでおまえは階層侵害者をかくまう? それにパビクは、自分でヨソ者じゃないって言った。アートも使えるし、ちゃんとしたブロンズの人間だ。かくれる必要のない子まで一緒にかくまってるのは、なぜなんだ?」
「・・・おまえらに話す必要は無い!」
「そりゃねえだろ! 牢屋に放りこんだり、ヒビナは追い回すし! やりたい放題で引っかき回して、話は出来ないって! いいかげんにしろよな!」
「勝手にわめいてろ! ヒビナの嫁入りをジャマさせないために牢屋に放り込んだんだ、それがいやなら、外に放り出してやる!」
「そう、じゃ、あたしが訊いたら答える?」
 ヒビナが、トラッシュとガベイジに割って口をはさんだ。
 ガベイジは、一瞬、言葉に詰まるが、
「・・・おまえがオラの嫁になるなら、すべて話してやってもいい」
「逆よねー。すべて話してくれるんなら、嫁になるとかならないとか、交渉のテーブルに着く用意があるのかないのか話し合う気になったりならなかったりするんだけど」
「巧妙に『嫁にはなりません』と言ってるような・・・」
 トラッシュのツッコミに、ヒビナはトラッシュの足を思いっきり踏んづけた!
「ぎえええっ!!??」
「・・・あー、くそっ! わかったわかった! 惚れた弱みで教えてやる!」
「惚れた弱みが余計よ!」
「パビクの両親はな、事故に遭って、ケガをしたんだ。それもパビクをかばって・・・わかるか? 二人はケガで、ダウンシフトしたんだ!」
「!!??なんだってぇ!?」
 トラッシュは衝撃を受けた。
「ケガせずに済んだパビクは、ブロンズのままだ。そしたらどうなる? パビクの両親はブロンズには住めない。ウェイスト行きだ! けど、パビクはブロンズから出られない。家族なのにだぞ? ブロンズに立派な家もあるし、ケガも治ったから両親はちゃんと働ける! なのに両親はウェイスト送りで、パビクは両親と引き離されて、ブロンズで一人で生活しろっていうんだぞ?」
「・・・・・・・・・」
 トラッシュも、ヒビナも、シャマルも言葉を失った。パビクも、パビクの両親も、うつむいて神妙な面持ちだ。
「スイーパーなんてのは、人間の心を持ってないのか? それともこの世の中は、正しい行いをして、真面目に働いている者たちでも、親子の絆を引き裂くのが決まりだと言うのか!?」
「だからおまえは、パビクの家族をかくまっているのか・・・?」
 トラッシュは、重い気持ちで言った。
「パビクだけじゃない、ここにいる他の子供たちや、家族は、みんなそうだ。階層侵害だかなんだか知らんが、家族を引き裂こうとするヤツらを、オレは許さん!」
 階層社会が生んだ悲劇・・・
 とりわけ、シャマルの気持ちは沈んだ。自分自身もまた、階層社会というルールにより、家族を引き裂かれた犠牲者だ。パビクの気持ちは痛いほどわかるつもりだ。
 トラッシュもまた、憤りを感じていた。階層と無縁の生活をしてきた彼にとって、イリーガルと呼ばれ、追い回されることを余儀なくされた。そんな彼には、階層という概念そのものが、受け入れがたい。ラビとの再会で、その思いを新たにしたばかりだ。
「あんなにウサギに執着したのも、ここにいるみんなを食わすために・・・」
「気が済んだか! ンなら、ヒビナを置いてここから出て行け!」
「あたし置いてかれないわよ! 好きなこと言ってんじゃないわよ!」
 ヒビナだけが、場の空気を読んでいなかった。

     ★     ★     ★

 湖畔の朽ちたホテルの前に、大型の車両が数台入り込んでいた。
 クレーン車、パワーショベル、トラック・・・すべて、スイーパー仕様の高機動ロボット車両だ。
 ヘルメットをかぶった作業員が、巨大クレーンを誘導する。アームの先には、ワイヤーで吊り下げられた、巨大な「壁」があった。
 いや、実はそれは壁ではなく、床だった。縦横30メートルを超える巨大な石造りの床が、クレーンで持ち上げられ、巨大トラックの荷台に積み込まれる。
 その床には、不思議な絵柄と色彩の、抽象画が描かれていた。グラフィティだ。
 その作業を、少し離れた小高い丘から眺めている、男女がいた。
 高機動SUVの傍らで、双眼鏡で、クレーン作業を眺めている男。背が高く、髪は長く、すらりとスリムな体型だが、ムダのない筋肉が制服に隠されていることが一目でわかる。
 キリィ・キンバレン大尉だ。
 そばには、もはや当然のごとく、メイペ・シノリがいた。
 双眼鏡を目から離したキリィが、メイペに向けて言った。
「コジェ・オリクのマップにあるグラフィティは、全部で5つ。さきほど6つめが見つかった旨のメールがあったので、それも含めれば一週間以内に全てをゴールドに運び込める算段だ」
「はい」
「・・・わたしが何のためにグラフィティを集めているか、興味があるか? メイペ」
「いえ、そんな! 大尉のお考えならば、聞くまでも無く、従うまでです」
「フッ、相変わらずだな・・・ 与えられた職務を、全力でまっとうするか。キミには望みはないのか? スイーパーとして、成し遂げたい望みは」
「そんな・・・わたしはまだ予備隊員です。まだまだ勉強をして、経験をつんで、その上で、自分が何をなすべきかが見えるまでは・・・」
 その言葉をさえぎるように、
「家族に対して、キミはそれでいいのか?」
 ハッ!と、メイペが息を飲んだ。
「今のキミがあるのは、家族のおかげ。そう考えているのだろう? スイーパーを志したのも、この世界で最も権威ある職務であり、地位だからだ。スイーパーとして、頂点まで上り詰めることこそが、家族に対する感謝を表すことになる、そう考えたからではないのか?『人』として、『再生』したキミがだ」
 メイペは、小さく震えているかのように見える。
「・・・ご存じなのですか? 大尉! わたしの・・・わたしのことを?」
「・・・わたしは、予備隊第120期の隊長だ。予備隊員たちのことは、今でも気にかけているつもりだ。今期ナンバーワンのキミを、このままにしておくのは惜しい。キミが『上』を目指す意志を明らかにしないのならば、キミにふさわしい舞台を、わたしが用意しようと思う。それならば、異存はないな?」
「大尉・・・わたしを・・・どうなさるおつもりで?」
 キリィは、フッ、と、不敵な笑みを浮かべた。

     ★     ★     ★

 スイーパー・ブロンズ地区第1方面支部。ここは、ブロンズ地区のスイーパー本部でもある。その司令官である、オールギッズ・ベベルカーン準士官は、まもなく四十路の声を聞こうかという女性隊員だ。赤毛のロングヘアをきっちりとアップにまとめ、身なりにも隙が無い。派手過ぎでも地味過ぎでもないメイクアップの美麗さは、キャリアのなせるわざか。
 落ち着き払った、しかしながら厳格な態度で、作戦に失敗したガドマール士長に相対していた。
「困ったことになったわね。階層侵害者が立てこもるなんてことは、珍しくもないけれど、すでに発覚から二週間を過ぎている。長引けば『サイ=サブラミス号事件』に匹敵する不祥事になりかねない。ゴールド本部はそう考えているわ」
「そ・・・そんな、このブロンズ地区支部が、歴史的事件にならぶスイーパーの汚点になると!」
「ならば、一刻も早くそのガベイジなる人物の身柄を確保し、階層侵害者を一網打尽にする。それしかないのよ」
「うう・・・わかってはおりますが・・・」
 脂汗を流すガドマールだが、打つ手はもはや思い浮かばない。
 と、そこへ。
 司令官のオープンオフィスのドアを、こんこん、と、おざなりにノックする人物が現れた。
「お困りのようでしたら、力を貸して差し上げましょうか?」
 カーリカ・ビアレだ。ワグダとフォルケも帯同していた。
「こ、これは・・・士官殿!」
 カーリカに敬礼を送る、オールギッズとガドマール。
「お久しぶりですわ、オールギッズ準士官。あなたのような優秀な司令官が手こずるなんて、あのガベイジとやらは、けっこうやっかいな存在なのですわね」
「お恥ずかしい限りです、カーリカ少尉」
「で、先ほどの話なのですが・・・よろしかったら、ガベイジ確保に、わたくしたちも力になりたくて、まかりこしましたの。いかがでしょう?」
「あれ? 連中の中にトラッシュがいたから、ブロンズ支部を利用すればイリーガルをとっつかまえるのにラクできるわー、なんて息巻いてたのは何だったの?」
 ワグダが、あまりにも率直な物言いをした。
「バ、バカでしょあなたは! 相変わらず脳みそが頭蓋骨の中をコロコロコロコロ転がってるんじゃなくて!?」
「・・・カーリカ少尉、少尉がスイーパー追跡スペシャルチームだというのは、スイーパー全員が承知しています。ワグダ少尉のおっしゃるように、共同戦線ということであれば、われわれも受け入れるにやぶさかではございません」
 フォルケは思った。
『なんだか、キリィ大尉以来、久しぶりにまともなスイーパー隊員に会った気がする・・・』
 だがそんなオールギッズの言葉を聞いているのかいないのか、小競り合いをしているワグダとカーリカだった。
「ゴホン!ゴホン!ゴホン!」
 わざとセキ払いをするフォルケだった。カーリカはようやくオールギッズに向かい、余裕のある表情を作り直した。
「たしかこの支部には、マイクロウェーブ砲が装備されてましたわよね・・・」

     ★     ★     ★

 水たまりに乗り入れたままのトラッシュのキャンピングカー。その屋根の上で、トラッシュはあぐらをかき、腕組みをして考え込んでいた。
『ダウンシフトしたからって、家族がバラバラに暮らさなきゃならないなんて、ガベイジじゃなくても受け入れられるワケがない! だからと言って、オレに何が出来る? ガベイジのようにスイーパーと戦うのか? でも、こんな理不尽なことに悩まされている人たちが、ここだけじゃ、いや、ブロンズだけじゃないかも知れない。そのすべての人たちに、オレだけで何が出来ると言うんだ!』
 キャンピングカーの周囲では、ガベイジとヒビナが追いかけっこをしていた。
「約束通り、オラの嫁になるのだ!」
「イヤアアアアァァァーーーッッ!! だからそんな約束した覚えないってば!」
「この洞窟でオラが何やってるか、教えただろ!」
「言ったでしょ!『嫁になるとかならないとか、交渉のテーブルに着く用意があるのかないのか話し合う気になったりならなかったりする』って!」
「じゃ、『嫁になるとかならないとか、交渉のテーブルに着く用意があるのかないのか話し合う気になったりならなかったりした』んだな!」
「え?う・・・まあ、それはそうだけど」
「やりィ! 一歩前進ン!」ガベイジはガッツポーズする。
「なにがどう一歩なのよ! あ、あんた、ほんとに頭悪いわね!」
 そんなさなか、悩んでいるトラッシュに向けて、シャマルが歩み寄り、言った。
「おい、そこで考え込んだって、どうにもならんだろ! トラッシュ、早くここを脱出して、先を急ぐべきじゃないのか?」
「何だよシャマル! おまえ、それは冷たいんじゃないのか? パビクたちの身になってみろよ!」
「オレは誰よりもパビクたちの身になってるだろ!」
「うっ・・・」
 トラッシュは言葉に詰まった。そうだった。クロス・クラスのシャマルは、二重階層のおかげで家族と離れ離れになったのだった・・・
「トラッシュ、おまえの考えてることなんて、すぐわかる。単純だからな。ここで暮らしてる人たちをなんとかしたいってんなら、おまえは一刻も早く、ゴールド階層の『王の座』を目指すべきだ! そうだろ?」
 シャマルはそう言った。
 キリィ・キンバレンに言われた、ゴールド階層の聖地、「王の座」。そこへ行けば、階層社会の概念そのものを覆す真理に出会える。トラッシュは、自らの存在理由を世に示すためには、そこへ向かわなければならない。
「王の座・・・」
 トラッシュの中で、何かがたぎるのを感じた。これは、何のための旅なのか。逃げ続ける生活を終わらせるため、自分のための旅なのか?
 いや、そんなことよりも、この世界の理不尽を跳ね返し、世の中を変えることが、このオレに出来るのならば・・・
 それがオレの戦いではないのか?
 誰かを傷つけたり、血を流すことじゃなくて、そうしなくてすむ世界に、この世の中を変えることが出来るのならば!

 その時。

 エトワが、何気なく言葉を発した。
「ねえ、トラッシュ・・・なんだか、暑くない?」
「はあ?」
 すると、追いかけっこをしていたヒビナも、いつのまにか、汗だくになっていることに気づいた。
「はあ、はあ・・・そ、そういえばなんだか暑いわね・・・」
「ンなら、オラが作った水風呂に一緒に入ろう! オラがおまえの体をすみずみまで洗ってやる!」
「き、気色悪いこと言うなーーーーッ!!」
 ヒビナ渾身の右ストレートが、ガベイジの顔面を捕らえた! だが、ガベイジはびくともしない。
 ニヤリと笑って、いや、顔が隠れているので、そう思えただけなのだが、ヒビナの右拳を両手でがっしりとつかんだ!
「うっ!?」狼狽するヒビナ。
「オラの思いを受け止めるがいいのだ!」
 そう言うとガベイジは、ヒビナの手をムリヤリ開かせると、薬指にリングらしきものをはめた!
「これで結婚成立だ! おまえは晴れてオラの嫁になったのだ!」
「ば、バカにも程がある! なんなのよコレ!?」
 薬指のそれをまじまじと眺めるヒビナ。なんだか、紐のようなもので作られたリングだ。
「乾燥ミミズをオラの髪の毛でグルグル巻きにした!」
「ギャアアアァァァーーーッッ!! なんつうー気色悪いモンを巻き付けやがんだーッッ!!」
 ヒビナは、必死にそれを外そうとするが、外れない!
「言っておくが、オラの髪の毛は結界の効果があるからな! ちょっとやそっとじゃ外れないぞ! アートを使ってもだ! コレでおまえは永遠にオラの嫁だ!」
「だからバカだって言ってるのよ! エンゲージリングは左手の薬指でしょ! こっちは右手!」
「はあ?オラから見れば、左だが?」
「こんな基本的なことから欠落してるバカに嫁入りするくらいなら、悪魔と結婚するわ!」
「そうか! ンじゃ、オラ悪魔になる!」
「おまえら、いつまでも漫才してんじゃない! なんかおかしいぞ? 確かに気温が上がってる!」
 シャマルが叫んだ。
 水たまりから、モワモワとかげろうのようなゆらぎが舞い上がる。

 地上では。
「この地帯の深層には、水脈があることがわかっていますわ。マイクロウェーブ、つまり電磁波で水脈を加熱すれば、地底の温度がグングン上昇して、文字どおり階層侵害者をあぶり出すという仕組みですわ」
 カーリカが腕組みをして勝ち誇る。そばにはワグダ、フォルケ、そしてガドマール。さらにスイーパー隊員が前回にもまして大勢出動している。
 三台のマイクロウェーブ砲が、その砲口を地下に向けている。まさにマイクロウェーブを照射している最中なのである。
「ホントはワグダのアートで地下水脈を熱すればと思ったのですが、このポンコツが拒否しやがりましてね」
「おまえね、こんな大規模水脈、地下のヤツらが全員飛び出すまでアートで熱してたら、あたしまで干上がっちまうだろ!」
「作戦のために死んでくれなかったと報告書に書きますわ」
『えげつな・・・』フォルケは心につぶやいた。
「その代わりと言っては何ですが、ワグダには別の役割を果たしてもらいますわ」
「う〜、なんでカーリカの言いなりにならにゃいかんの・・・」

 地底洞窟では、パニックが起こっていた。
 子供を抱えた親は、少しでも気温が低い場所を求めて移動するが、もはや地下洞窟にそんな場所は残っていなかった。
「お屋形さま! 間違いありません、地上にはスイーパー部隊がいっぱいいます! たぶん50人くらい・・・」
 パビクが、あせりながら報告する。
「うぬう・・・スイーパーのやつらめ、懲りない連中だ! またオラがぶっ飛ばしてやる!」
「ガベイジ!」
 トラッシュがその名を叫ぶ目の前で、ガベイジは、その赤目を輝かせる!
「土の柱」に乗り、ガベイジは地上へと勇んで飛び出していった。

 ドオオオンンッッ!!

 そびえ立つ「土の柱」。その頂上で、ガベイジは、
「スイーパーども! こんな小細工、オラがぶっ飛ばしてやる!」
 それを見て、カーリカは、
「お出でのようね。やってくださる?ワグダ」
「やれやれ・・・」
 ワグダは、その目を銀色に輝かせ、「土の柱」を指さす。
 すると、「土の柱」全体から、プシュウウッッ!と、湯気がいくつも吹き出した!
「あちちっ!? な、なんだ?」
 湯気の熱さで、「土の柱」の頂上で、足踏みするガベイジ。
 と、つづけてカーリカが、「ショックウィーゼル」を取り出し、
「ふんっっ!!」
 それを横に払うように振り、衝撃波を「土の柱」に向けて放つ!

 バシイイイィィィッッ!!

 衝撃波を食らった「土の柱」は、全体に亀裂が入り、

 グワアアアアッッシャアアッッ!!

 もろくも崩れた!
「な、なにいいいぃぃっっ!!??」
 崩落する「土の柱」と共に、地上に落ちるガベイジ。
「ワグダのアート、あらゆる物質の含有水分が蒸発するほど沸騰させるワザで、『土の柱』をカラカラに乾燥させたのですわ! そうなれば、わたくしの『ショックウィーゼル』の衝撃波で、簡単に崩れ去ってしまいますわ!」
「こ、こんちくしょうが・・・」
 ガベイジは、再び赤目を輝かせながら、地面を思いっきり殴る。が、それよりも早くワグダは、瞳を銀色に輝かせ、アートを放つ!
 マイクロウェーブ砲は、砲台ごと後方へすばやく移動した。ちょうどその位置で、地面から突き上がる「土の拳」。マイクロウェーブ砲を狙ったのだろう。だがそれは、すでにワグダにより乾燥させられており、ボロボロと崩れかけていた。そこへ、カーリカの「ショックウィーゼル」が、とどめをさす。

 ドゴオオオオォォ・・・

「土の拳」もまた、土煙を上げて崩れ去った。
「あなたのような単細胞のターゲットを予想するのは、そう難しくありませんわ。そう考えたら、『土の拳』の出現する位置など、見抜くのはカンタンなこと・・・」
「おのれえぇぇ〜・・・」
 闘志を失わぬガベイジのうめき声、それとは裏腹に、打つ手を封じられ、赤い目に焦りの色が隠せない。
 地下洞窟の住民たちは、地上の様子を監視できる潜望鏡を持っていた。ガベイジの様子を覗いていたトラッシュたちもまた、緊迫していた。地盤の下から蒸し上がる暑さは相変わらず、トラッシュたちから汗をしぼり取る。こうして身を隠していられるのも、時間の問題だった。
 シャマルは、マイクロウェーブ砲があることから、地下水脈を熱していることを見抜いた。
「オレたちゃ蒸し器の小籠包、ってワケか」
「しかもガベイジのアートを封じるなんて、さすがカーリカ姉さんだ、なんていいたくないが・・・」
 トラッシュは、なんとかガベイジたちを救う方法がないか、考えていた。
『この暑さ、子供と年寄りには命取りになりかねない。せめて彼らだけでも、早くここから脱出させないと・・・』
 エトワも汗だくになりながら、心配そうな表情でトラッシュを見つめる。
 トラッシュは、そんなエトワを見つめ返し、
「エトワも、いつまでもここに置いてはおけな・・・??」
 その時、トラッシュの脳裏に、稲妻が走った!
「パビク! パビクはいるか?」
「なんだよ! ここにいるよ!」
「相談がある! 聞いてもらえないか?」
 トラッシュは、パビクに耳打ちする。
「な、なんだって!? そんなこと・・・ほんとうに出来るのか?」
「できる! オレを信じろ!」
「信じられるか! おまえらなんか! オイラが信じるのは、お屋形さまだけだ!」
「そのお屋形さまのピンチなんだぞ!?」
「う・・・」
 確かに、ガベイジはこれまでにないピンチに見舞われている。だが、パビクにとってトラッシュは、スイーパーであるという疑いは晴れたにせよ、今日初めて会った人間だ。常に逃亡生活を強いられ、仲間以外は信じられない暮らしをしてきたパビクには、いきなり信じろと言われても、容易には受け入れられるはずがない。
 牢を脱出した手際といい、トラッシュがただ者ではないことはわかっているが・・・
 と、その時、エトワがパビクの腕にそっと手を触れ、言った。
「大丈夫だよ、パビク! トラッシュは絶対裏切らない! うそはつかない! 信じて?」
 エトワの、一点の曇りもない笑顔。その額には大汗をかいている。だが、優しく触れるその小さな手には、不安に震える様子など微塵もない。自分自身も、命の危険にさらされている、こんな小さな子供が、この瞬間もトラッシュを心から信頼していることが、パビクにもわかった。
 もう一度、トラッシュを振り向いてみる。
 パビクに真剣な視線を送る、そのグリーンの瞳は、色こそ違えども、ガベイジのそれと同じ?
 まっすぐで、よどみがない。瞳の奥を突き抜けて、心までも透かして見えるような・・・
 パビクには、そう思えた。
 パビクは、深くうなずいて見せた。

     ★     ★     ★

 スタンガンを構え、ガベイジに迫るスイーパー隊員たち。
 カーリカは腕組みをして、勝ち誇る。
「そろそろ降参したらいかがかしら? あなたに勝ち目がないのは、火を見るよりも明らかですわ! ホーホホホホ・・・」
「バカ言え! 死んでも降参なんかするか!」
「では、地下のご友人たちも、あなたと運命を共にしろ、ということですわね?」
「ううっ・・・」
 歯がみをして、こめかみに汗をたらすガベイジ。
 すると、そこへ・・・
「わかった! 降参する! 今から投降するから、部隊を下げてくれ!」
 いつの間にか、ウィンドボードに乗り、ふわふわと浮遊するトラッシュが、そこにいた。
「て、てめえ! 勝手なこと言うな! おまえの言うことなど、誰が訊くものか!」
 ガベイジはそう叫んだ。が、トラッシュは意に介さず、
「まず、子供から先に、脱出させてくれ! パビクが先導する!」
 その言葉に従うように、地上に姿を現すパビクだ。
 ガベイジは、驚嘆の表情をかくさない。
「パビク・・・おまえ、ヨソ者の言うことに従うのか・・・オラを裏切るのか!」
 パビクは応えず、硬い表情のままだ。
 いっぽう、トラッシュの言葉を受けて、カーリカは、
「イイでしょう! わたくしも鬼ではありません!」
「ええっ!違うのか?」ワグダの軽口に、
「あなたはだまってて! ややこしくなるばかりですわ!」ツッコむカーリカ。
 パビクは、幼い子供たちを引き連れて、カーリカたちのもとへと、歩みを進める。
 それを、苦々しい表情で見つめているガベイジ。
 20人ほどの、幼児から10代までの子供たちが、両手を上げて、ゾロゾロとワグダやカーリカの回りに集結した。
「よろしい。次はお年寄りを連れてきてもらいましょうか」
 カーリカがそう言ったとき。
 ワグダは足下に、パーカーを着てフードをかぶった一人の子供が、しがみついて来るのに気づいた。
「??」
 いぶかしげなワグダに向けて、その子供、少女が、顔を上げて見せた!
「久しぶり、ワグダお姉さん!」
 ニッ、と笑ったその少女、それは・・・
「おまえ、エトワ?」
 エトワは、ワグダにひしと抱きつくと、右手を掲げ、それをウィンドボードで浮遊するトラッシュに向けた!
「トラッシュ! 受け取って!」
「!!??」
 ワグダが気づいたときには、遅かった。
 エトワの右手の平に、光のツブが泡のようにいくつも集まると、それがひとかたまりになり、光の玉になって、15ミリほどの赤い球体が生まれた!
 それは光の速度で、トラッシュの元へと飛んでゆく。
 その反面、ワグダは、ガクンと体の芯から、力が「かたまり」で抜ける感覚、を味わっていた。
 トラッシュは、光の玉を、右手でパシッと受け取った。手の上のその球体は、赤いキャンディだ!
「ワグダ! ごっそさんです!」
 トラッシュはそのキャンディを、口に放り込む!
 ワグダはあせった! それは一度目にしたことがある、エトワの特殊能力!
「全員、警戒態勢! トラッシュが反撃するぞ!」ワグダが叫ぶ!
 その声に反応するように、パビクは右手を掲げ、その目を銅色に輝かせた!
 ワグダやカーリカやフォルケ、そしてガドマールたち、スイーパー隊員の足下に、ぽっかりと落とし穴が空く。ワグダたちは、「わあああっっ!」と叫んで、その穴に落下した。
「今だ、みんな、洞窟へ戻れ!」
 パビクの合図で、子供たちは、歓声を上げながら、来た道を引き返していく。
 トラッシュは、エトワに向かって、
「作戦開始!」
「了解!」
 エトワは答えると同時に、その場にしゃがみ込み、右手の平を地面に当てる!
 ゴゴゴゴゴ・・・と地鳴りが聞こえたかと思うと・・・
 地面のあちらこちらから、水柱が吹き上がった! エトワのアート、水を自在に扱うワザが炸裂したのだ。
 その水柱はすでにけっこうな温度のお湯だった。つまり、マイクロウェーブ砲で熱された地下水を抜いているのだ。
 それに呼応して、トラッシュもまた、右手を掲げる。その目が「銀色」に輝く!
 落とし穴から、ほうほうの体で脱出したカーリカやワグダたちスイーパー部隊。その真上から、熱湯の雨が降り注いだ! それは、トラッシュがワグダから奪ったアートで、エトワの水柱がさらに熱されたのだ!
「あちっ!あちちっ!あちちちちちぃぃっっ!!」
 カーリカ、ワグダ、フォルケ、そしてガドマールたちスイーパー部隊は、たこ踊りでも踊っているかのように、熱湯の雨にのたうち回った。
「ちくしょう! エトワにアートを奪われた!」
 ワグダはそう嘆く。エトワの特殊能力とは、自分や他人のアートを、一時的に奪い取って、他人に与えることが出来るものだ。アートをキャンディに固め、そのキャンディを食べた者は、口の中で溶けて無くなるまでは、そのアートを使うことが出来る。逆にアートの持ち主は、その間はアートを使えなくなる。
 今は、ワグダのアートを、トラッシュが奪い取っているのである。
「た、た、退散!!」
 ガドマールの指令で、スイーパーたちは、機動車両に乗り込み、その場を逃げ出した。ワグダ、カーリカ、フォルケも、びしょ濡れになって、その場を去る。
「ま、またしてもキツネにしてやられるなんて・・・キイイィィッッ!!」
 カーリカは、ヒステリックに叫ぶ。カーリカの去り際も、パターン化してきたな、と思うフォルケだった。
 すると、こんどはガベイジが、
「オラを怒らせた罪はデカイぞ! 二度と同じことはやらせねえ!」
 目を赤く輝かせながら、数発のパンチを地面にたたき込む!
 地面から、「土の拳」がいくつも飛び出し、三台のマイクロウェーブ砲は、ドオンッッ!と宙に舞い上がった。

 ドドドドドドドドッッ!!

 マイクロウェーブ砲は「土の拳」の連打をくらい、空中でバラバラに分解し、部品の雨が散らばって大地に降り注いだ。
「スゲエ・・・」
 ガベイジの怒りのアートに、驚嘆の声をもらすトラッシュ。

 地下洞窟の住民、とりわけ子供たちは、喝采の声を上げ、勝ちどきを叫んだ。子供たちの親も、手を取り合って喜んでいる。
 そこへ、トラッシュが戻ってきた。
 パビクが、真っ先にトラッシュに駆け寄り、その手を握った!
「すごい! すごいよ、トラッシュ! ほんとに、オイラたちを救ってくれたんだね!」
 満面の笑みを浮かべるパビク。エトワは、
「だから言ったでしょ、トラッシュは絶対に裏切らないって!」
 すると、歓喜の場へ、ガベイジがゆらりと姿を現した。ガベイジもまた、ずぶ濡れになっている。
 マントとターバンで隠されてても、その表情が、苦々しいものであることがわかる。
 はしゃいでいた子供たちが、水を打ったように、シーーーンとなった。
 パビクが、おずおずとガベイジの元へ歩み寄り、言葉を押し出す。
「お・・・お屋形さま、すみません。お屋形さままでだますことになって・・・ホントにすみません!」
 パビクは、深く深く頭を下げた。
 しばし、無言の時が続く。
 と、ガベイジは、パビクの肩を、ポンッ!と叩く。
「この洞窟にはもう、長くはいられねえ。また新しい場所を探す。手伝ってくれるな?」
「は・・・はい!」
 ガベイジは、今度はトラッシュの元へと歩み寄る。トラッシュが先に言葉を発した。
「ガベイジ・・・出過ぎたマネをしてすまんな。オレも・・・」
「おまえは、ヒビナを連れて、とっとと出て行け」
「ガベイジ!?」
「キャンピングカーは、オラが『土の柱』で、地上に持ち上げてやる。さっさと荷物をまとめろ」
「・・・サンキュー、ガベイジ」
「礼なんかいらん。おまえの顔なんざ二度と見たくねえ!」
 ガベイジは、トラッシュの横を通り過ぎ、こんどはヒビナに向かって、
「今日の所は、おまえを帰してやる。次に会うときは、りっぱなオラの嫁になれるよう、花嫁修業しておけ、ヒビナ」
「な・・・な・・・なんちゅう言いぐさなのよ!」
 ヒビナ、渾身の右ストレートを、ガベイジにぶち込む!
 だが、ガベイジは平然とそれを左手で受け止め、すかさず右手でヒビナの左ほほに触れると、
「強ええ女は、オラの好みだぜ」
 赤い目の目尻が、ニヤリと笑った。
 ゾワワワ・・・・と、寒気が走ったヒビナ。
 ガベイジは、そのまま洞窟の奥へと姿を消していった。
 シャマルは、ヒビナに向かって、
「良かったな、こんなおまえでももらってくれるヤツがいるんだ、世の中捨てたもんじゃないな!」
「・・・じょ、じょ、じょ、じょ、冗談じゃないわよおおっっ!!」
 洞窟内を、ヒビナの声がこだまする。

     ★     ★     ★

 トラッシュたちとスイーパーの戦いを、双眼鏡で眺めている者がいた。
 バイクにまたがる、黒髪に黒のスイーパー制服。精悍な顔立ちと体つき。デタン・デズ・デギウスだ。
 双眼鏡を降ろすと、手元のスマートフォンで、なにやら情報を検索している。
「ガベイジ、か・・・見たところ、イリーガルとの類似点が多いのが興味深いな」
 冷たい微笑みが、口角に浮かぶ。
「イリーガルと、イリーガルもどきか・・・コイツは面白い・・・」

     ★     ★     ★

 トラッシュのキャンピングカーは、ふたたび西へ西へと進む・・・
「どこまで逃げられるのかしら、あの子たち・・・というか、あの人たち」
 ヒビナが、同情する言葉をこぼした。
「そういうおまえも、どこまで逃げられるんだろうな?」
「はあ?」
 シャマルの皮肉っぽい言い回しに、ヒビナがいつものトゲのある返答をした。
「ガベイジ、ありゃ、本気だぞ?」
「ちょ、ちょっと! やめてよね! やっとあのケダモノから解放されたのに!」
「さあてな、おまえは本当に解放されたのかな?」
「なにがよ! なに言ってんの?」
 シャマルは、ちょいちょい、と、自分の右手を指さす。
 ヒビナは、自分の右手を見てみた。
「・・・あああああああああぁぁぁ〜〜〜〜〜っっ!!」
 ヒビナの右手の薬指には、ガベイジが作った指輪がはめられたままだった。
「こっ・・・こっこっこ、こんなもの!」
 ヒビナは必死で、その指輪を外そうとするが、どうしても外れない!
「それ、ガベイジの想い、いや、執念がこもってるからな。観念したほうがいいかもな」
 ヒビナは、涙目で・・・
「ぃやめてえええええぇぇぇぇ〜〜〜〜っっ!!」

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>>>第2章第7話へつづく。
次回「激突!トラッシュVSガベイジ」

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