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第2章第7話「激突!トラッシュVSガベイジ」

 地底の洞窟へと落下してしまった、トラッシュ一行のキャンピングカー。その洞窟は、ガベイジがかくまう階層侵害者のすみかだった。
 洞窟の住人の一人パビクは、両親がダウンシフトしてしまったため、そのままでは両親と離れ離れになるしかない。階層社会のルールが生んだ悲劇に、憤りを隠せないトラッシュで・・・
 いっぽう、キリィは、着々と自身の計画を遂行していた。グラフィティをスイーパー本部に運び込むという。
 はたして、キリィのもくろみは、どこにあるのだろうか。

     ★     ★     ★

 ブロンズの森の中。
 草をはむ子鹿を狙う、赤く鋭い瞳。その少年は、麻のマントに綿のターバンをまとい、刺すような視線を、引き絞った弓につがえた矢と重ねる。
 子鹿ののど元目がけ、それは放たれた!
 と、その時!
 子鹿を捕らえる前に、パシッ!と、その矢を、つかんだ者がいた!
 麻のマントの射手は、その赤い目をむいて、驚嘆した。
 黒い革ジャンに黒のジーンズ、そして黒いサングラス姿の男が、矢を握りしめて、ニヤリと笑う。
 と、革ジャンの男は、もういっぽうの手のひらを、子鹿に向けた。
 ドオオオンンッッ!!
 子鹿が、まるで打ち上げられたかのごとく、上空へ吹っ飛んだ!
 やがて、その子鹿は・・・
 ドサッ!と、赤い目の少年の目の前に、落下した。
 子鹿はすでに、こときれている。
 赤い目の少年、ガベイジは、苦々しい表情で、革ジャンの男をにらみつける。
 それを受けても、革ジャンの男は、薄笑みを浮かべているだけだった。

     ★     ★     ★

 ブロンズの旧市街、商店街を歩く人々。そこは活気に満ちあふれていた。
 マルシェだけでなく、昔ながらのこういう商店街も、地域によっては未だに根強い人気があった。一言にブロンズと言っても、ひとくくりには出来ないほど、さまざまな街があり、それぞれに文化があった。
 石造りのメインストリートをはさんで、両側ににぎやかな人通りがあり、商店が立ち並ぶ。店頭に色とりどりに商品が並び、道行く人々の目を引く。
 群衆の中に、一人の少女がいた。
 クリーム色のフード付きポンチョを羽織り、その襟を立ててフードもかぶっている。「お忍び」の風情が漂う身なり。フードの影には、ナチュラルブロンドの髪に白い肌、澄んだ碧い瞳の、この上もなく愛らしい素顔を押し隠している。
 ポンチョの下は、濃いピンク、といってもけばけばしさは感じない抑えた色彩の、チェックのネル生地のシャツ、そして紺のベスト。カーキ色のキュロットスカートに、ダークグレーのストッキング、チョコレートブラウンの革ブーツ。ナチュラルで落ち着いた、なのにフレッシュな華やぎもあるファッションは、趣味の良さを感じさせる。
 店頭のディスプレイで、洋服や、バッグや、アクセサリに目を輝かせるさまは、ごくごく当たり前の少女のそれだ。だが、その笑顔の奥には、心に引っかかる、ある言葉がのしかかってている。
 少女の名は、メイペ・シノリ。
 彼女がこの街に繰り出した理由は、それが上司であるキリィ・キンバレンの指示だからだ。

     ★     ★     ★

「ええっ!!」
 メイペ・シノリは、それまで発したことのないような、悲壮な叫びを発した。
 前日の夕刻、スイーパー・ブロンズ地区第8方面支部。メイペは、ブロンズ地区の各地視察に訪れたキリィ・キンバレン大尉に同行し、その最後の任務を終えたところで、キリィ自身から、秘書職の退任宣告を受けた。
「で・・・では、わたしは・・・クビなんですか!?」
「そういう意味ではない。キミには現場に出てもらおうということだ。配置転換だよ」
「・・・わたしに、何か落ち度がありましたでしょうか」
「いや、わたしの秘書としては、実に良くやってくれた。だが、キミの実力をもってすれば、現場こそがふさわしいと考えたのだ」
「わたしは、予備隊員です・・・正規隊の皆さんをさしおいて、現場に出ても良いのでしょうか」
「フォルケ・オードビーの例もあるだろう?」
「わたしには、自信がありません・・・」
「わたしの秘書に入ったときもそう言っていたな。だが、キミは立派にこなしてみせた。キミならば、まちがいなく第一線で結果を出せる。自分を信じられないならば、わたしを信じろ」
「・・・現場というのは?」
 メイペの絞り出すような言葉に、キリィは背を向け、屋外を眺めながら、言った。
「ターゲットは、イリーガルだ」

     ★     ★     ★

 メイペは、ブロンズの街で、キリィの言葉を思い返していた。

『とはいえ、ワグダ・パレスモ少尉たちスイーパー追跡スペシャルチームと合流するというわけではない。キミは単独で、イリーガルを追うのだ。その作戦の全てはキミに任される。そして、君が望むすべてのバックアップ体制を、わたし、キリィ・キンバレンの名義で受けることが出来る。どうだ?』
『・・・少し、お時間をください。辞令であれば有無を言わず、拝命すべきだと考えます。しかしながら、任務が任務だけに、考えるお時間をいただければ・・・』
『無論だ。24時間やろう。いい返事を待っているぞ』

 今はその24時間の最中、とはいえ一夜明けて、すでに15時間が過ぎていた。
 イリーガルの正体は、いまだ解明がなされていないが、アザク・ラガランディである可能性が高いと認識されている。メイペにとっては、予備隊の同期生だ。あまり交流があったとは言えないが、言葉を交わすぐらいはしていた。メイペにとってアザクは、ほがらかで、快活で、しかしどこか浮き世離れした少年であった印象が強い。とても、スイーパーの裏をかいて、階層を欺いていた人物だとは思いがたい。
 そんなアザクかも知れない人物を、ターゲットにしなければならない、というのだ。
 同じ境遇にあるフォルケに対し、気の毒に思ったのも、ほんの先日のことだ。それが、自分にも降りかかってくる・・・
 だが、キリィ・キンバレンの言葉もまた、メイペには重い意味があった。
 今の自分があるのは、いや、「存在するのは」、自分の家族があってのこと、といっても、少しも大げさではない。
 父、母、祖父、姉、兄、弟・・・
 メイペにとっては、命に替えても惜しくない、ほんとうにそう思う。
 彼らに対する感謝の念は、言葉だけでは表しきれない。だから、彼らの希望でもある、スイーパーを志した。この世界では、スイーパーという職業は、最上最高のエリートであり、権威であり、羨望の的だ。それだけではない。スイーパーの中でも最高の地位に上り詰め、家族の誇りとなることこそが、メイペにとっては、最大級の恩返しだ、そう考えている。
 ならば、身に余るこの任務は、その第一歩としても、なんの不足があるだろうか。
 ・・・そう自分に言い聞かせたとしても、まだ、躊躇するメイペであった。
 あまりにも、自分の身の周りが、急激に変化しすぎた。その戸惑いもあった。

 そんな気持ちを察してくれたのだろうか。
 キリィ大尉は、今日一日、完全休暇を与えてくれた。24時間の期限は有効なままだが。
 そして、ブロンズの旧市街を歩いてみるといい、そういって送り出してくれたのだ。
 確かに、この古い町並みと、活気あふれる人々の姿は、重いメイペの心を、少し晴らしてくれてはいた。
 だが、それさえも、キリィの計画の一部だと知ったら、メイペはどう思うだろうか。

     ★     ★     ★

 ゴールド階層、スイーパー本部ビル143階。キリィは、ブロンズから一足先に自分のオフィスに戻ってきていた。
 キーボードを叩くキリィの脳裏に、舌足らずな少女の声が響き渡った。
『あ〜あ、とうとうメイペを解き放っちゃったのね・・・』
『ルゥか・・・ 本当に解き放つのは、これからだぞ?』
『キリィも、思い切ったことするわねー。よく、リリネアが承諾したわね?』
『リリネアとて、わかっているのだ。われわれの計画を達成するには、キャピタルGの命さえ削ってもらう必要があることをな』
『わたしにとっては、面白い見物になりそうだけどねー』
『わたしとて、興味は尽きない。これでダメなら、次は五百年、いや千年待つことになるかもしれんのだ。そこまで、保つかどうかすらわからん』
『・・・セイレイのおもむくままに、運命は動いてくれる、のかしら?』
『運命など、わたしが支配してみせる・・・』

     ★     ★     ★

 その日の朝のこと。
 トラッシュたちは、ガベイジの洞窟を後にし、旧市街の郊外、小高い丘の上にあらたにキャンプを張っていた。
 トラッシュは夢を見ていた。
 それは久しぶりのことだった。赤や青や紫に彩られた、花畑のような、虹の上のような・・・甘い香りが漂う、心地よい空間の夢。
 薄衣をまとい、泳ぐような、空間に漂うような、女神の姿。
 だが、女神はいつもと違い、トラッシュに背を向けていた。
 なぜだか、トラッシュにも、女神に声をかけることが、はばかられるように思えた。
 背を向けた女神は、すすり泣いているのか?
 そんな思いが、頭をよぎった。

 目を覚ましたとき・・・
 何かが、頭に残って、引っかかっている気がした。
 思い出すべきコトが何かあるのに、どうしても思い出せない・・・その時の感じだった。
 朝食を作るときも、それがずっと気にかかっていた。
「トラッシュゥ〜、まだあぁ〜?」
 トラッシュの脇で朝ご飯をせかすエトワ。オムレツを作りながら、トラッシュは、
「なんだろう・・・なんか・・・なにかが足りないのかな?」
 思い出せないなにかが、料理に関するもののような気がしてきた。
「そうだ! ピロリーンダケ! ピロリーンダケのソースだ!」
「・・・ピロリーンダケ?」
 エトワのいぶかしげな言葉にも耳を貸さず、トラッシュは、とりつかれたようにつぶやいた。
「半熟のオムレツに、ピロリーンダケのソースが合うんだ! 香りといい、歯ごたえといい・・・ そうだ、ピロリーンダケを買いに行こう!」
 トラッシュは、ジャケットを羽織ると、最近手に入れた中古のモペット、モーター式の軽量バイクにまたがった。いつもは、キャンピングカーのリアキャリアに結びつけている。
「ああっ! トラッシュ? どこ行くのーっっ!?」
 モペットは、シュオオオオンッッ!と、軽快なモーター音を立てて、走り去っていった。
「トラッシュゥゥゥ!! 朝ご飯はぁぁぁ〜〜〜っっ!!??」
「どしたの?エトワ・・・」
 エトワの叫び声に、寝ぼけまなこのヒビナが訊いてくる。

     ★     ★     ★

 そこは、「スカイパーク」と呼ばれる、人気スポットだった。ブロンズの旧市街では、シルバーやゴールドのような高層建築は見かけない。最も高層の建物が、10階建ての市庁舎だ。その形状は、5階建ての庁舎の屋上に、プラス5階の塔が乗っているような、横から見ると凸の字型の建物である。
 その5階の屋上部分は、スカイパーク、つまり公園になっており、市庁舎でありながら屋台などの出店も認められている。ちょっとした遊具や、ステージや、展望デッキがある。オープンカフェでお茶を楽しみながら、大道芸を見ることも出来る。いわゆる市民の憩いの場なのだ。
 天気のいい日、すなわち今日のような日には、家族連れやカップルで賑わっている。
 メイペはそのスカイパークで、露天商から買ったビーズのアクセサリをながめながら、アールグレイのミルクティーを味わっていた。
 ふと、となりのテーブルに目を向けると、ベビーカーに赤ん坊を連れた若い母親が、一息ついていたのだろうか。ずいぶんと膨らんだ紙バッグがたくさんあり、バーゲンセールにでも行ってきたようだ。
 母親は、ささやくように子守歌を歌っていた。

♪ねむれ ねむれ いとしい みどりご♪
♪ははのむねに いだかれ せいれいに まもられ・・・♪

 だがすでに、赤ん坊は、ベビーカーですやすやと眠っていた。その桃の実を思わせるピンクのほほが、なんとも愛らしい。それを見て、ついつい、とろけたような笑顔になっていたメイペは、ふと、母親と目が合ってしまった。母親もまた笑顔を返してきて、メイペは照れくさいこと。赤ん坊とおなじくらい、ほほを染めた。

 トラッシュは、市庁舎前の駐車場に止めたモペットにまたがったまま、手にした買い物袋を、じーっと見ていた。
 ピロリーンダケ、ひとパック15ビルもする高級食材だ。
『・・・なんで、オレ、ピロリーンダケがそんなに欲しかったんだろう?』
 今さらそんなことを考えていた。
 何かに突き動かされたように、旧市街にまでピロリーンダケを買いに来た自分。というより、ピロリーンダケなんて、ホントはどうでも良くて、ほかに理由があったのだろうか?
 夢で、西へ向かえと言われて旅を始めたように、夢の女神にまたしても、そそのかされたのだろうか?
 求めるものが、ピロリーンダケだと思い込んだだけであって。
『そもそもオレ、ピロリーンダケのソースなんて作れねえし』
 トラッシュは考え込んでいた。

 こうして、ふたりは同じ街をさまよっていた。
 仕組まれた「運命」は、そこまでだったはずだ。
 さすがに、すべてがシナリオに書かれていたわけではなかった。

 市庁舎の1ブロック隣の、7階建てのビルは、工事中だった。
 クレーン車が、その屋上に鉄骨を吊り上げていたときだった。
 クレーン車をささえる土台が、ミシッと、イヤな音を立てた。現場監督は、瞬間的に、危険を察知した。
「作業中止! 中止だっ!」
 だが、遅かった。

 バキィッッ!!

 鋼鉄製の土台が、折れた!
 あってはならない事態に、現場監督は、とっさに叫んでいた。
「危なああぁぁぁいぃっっ!! 倒れるぞ! みんな逃げろおおおぉぉっっ!!」
 7階に達するクレーン車が、鉄骨を吊り下げたまま、ゆらああぁぁっと、倒れ始めた!
「キャアアアアァァッッ!!」
「逃げろおおおっっ!!」
「倒れるううううぅぅっっ!!」
 周辺には、悲鳴と怒号があふれかえった。工事中のクレーン車の足下は、とうぜん通行禁止になっていたので、その場は危険に陥ることはなかった。
 問題は、1ブロック先の、市庁舎だった。
 倒れてくるクレーンの先端が、鉄骨ごと、スカイパークに達してしまう!
 スカイパークの人々は、迫り来るクレーンに、パニックに陥った。
 逃げ惑う人々は、階段やエスカレーター、エレベーターに殺到した!
「落ち着いて、みなさん、落ち着いて避難してください!」
 メイペは、このような事故にも、市民の安全確保というスイーパーの職務に忠実に、避難する人々を誘導した。

 市庁舎の真ん前にいたトラッシュは、非常事態に、すぐさま安全な場所へと逃げていた。
 ウィンドボードがあれば、何か役に立っただろうか? 一瞬そう思ったが、このような事態ではあまり役に立ちそうもなく、それよりも目の前の事態を、見ていることしか出来なかった。
 巨大なクレーンが、ゆっくりゆっくり、倒れていくさまは、これから起こることの凄まじさを感じさせない。
 だが。

 ドガッシャアアアァァァ・・・!!

 スカイパーク展望デッキの手すりを巻き込んで、クレーンが激突した! トラッシュは、その大音響に、そして想像以上の破壊力に、縮みあがった。
 展望デッキが陥没し、ガレキが散乱する。5階と4階の壁に、大きな穴があいた。
 スカイパークと、市庁舎周辺に、悲鳴が響き渡る。
 だが、スカイパークに直接的な被害者は、出てはいなかった。激突した場所がかなりスカイパークの端、展望デッキ付近に限られていたこと、そして階段やエスカレーターはスカイパーク中央の塔にあったため、人々はそこに集まっていたことが幸いした。激突の衝撃と振動で、スカイパークの何人かが転倒した程度だった。
 後でわかったことではあるが、休日の市庁舎内には人が少なかったため、階下にも被害者はいなかったという。
 メイペは、ホッと胸をなで下ろす。
 しかし、

「キャアアアアァァァッッ!!」

 絹を裂くような悲鳴に、ハッ、と、メイペは我に返る。
 悲鳴の主、転倒している女性は、先ほどの母親だ。その視線の先に・・・ベビーカーがあった!
 クレーンの先端と鉄骨は、展望デッキを破壊し、そこを中心に、半径7〜8メートルの範囲で屋上部分が陥没していた。母親は転倒した際に、ベビーカーから手を離してしまったのだ。そしてベビーカーは、陥没部分に向かって、すり鉢状に傾斜する床面を、滑り落ちていった。
 赤ん坊を乗せたまま!
 このままでは、ベビーカーは5階の高さから、落下してしまう!
 メイペは、とっさに走り出した!
 斜面にそって加速してゆくベビーカー。それを見て凍り付くスカイパークの人々。
 メイペは、その容姿に似合わぬ、アスリートのごとき走りで、ベビーカーに迫る!
 陥没部の穴まで、ベビーカーは、あと5メートル、3メートル、2メートル・・・
 誰もが、1秒後の惨劇に目を伏せた!

 ガシィィッッ!!

 メイペの右手が、ベビーカーのハンドルをつかんだ。そのまま、メイペは床面に腰を落とし、自分の体をブレーキにした。革のブーツも、カーキのキュロットも、摩擦で黒ずむのもいさいかまわず!

 ズサササササッッ!!

 ベビーカーは・・・陥没部の穴から10センチメートルの位置で停止した!
 オオオ・・・と歓声が上がる、スカイパーク。
 額に霧を吹いたような汗をかいて、ニッコリと微笑むメイペ。ベビーカーの赤ん坊は、なんと、この状況でも、すやすやと寝息を立てていた。
 スカイパークが、安堵のため息とざわめきに包まれた・・・のも、つかの間!

 ガガガガアアアァァッッ!!

 市庁舎に食い込んだクレーンと鉄骨の重みが、まだじわじわと引力に引き寄せられ、スカイパークの陥没部をさらに押し広げた!
「ああっっ!!」
 メイペが、荒い息と共に声を押し出した。ベビーカーは、メイペの華奢な体ごと、陥没部にさらに吸い込まれていった!
「いやああああぁぁっっ!!」
 叫ぶ母親の視界から、ベビーカーとメイペが、消えていった!

     ★     ★     ★

 地上のトラッシュの位置からは、スカイパークで何が起こっているのかは、知るよしもなかった。ただ、クレーンが食い込んだ市庁舎のガレキが降り注ぐ中、5階屋上から聞こえる悲鳴に、なにごとか起こっていることだけはわかった。
 そのトラッシュの目の前で・・・
 陥没部分からベビーカーが飛び出し、そのハンドルを握った人間のシルエットが目に入った。
 落ちる!
 トラッシュの心臓が、のど元を突き上げた!
 だが。
 次の瞬間、トラッシュが見た光景は・・・
 陥没部から、にょっきり生えている枝のような、まがまがしくねじまがった展望デッキの手すり。ベビーカーのハンドルを右手で握っている人物は、左手でその手すりにぶら下がっていた!
 5階から突き出した手すり、その真下にはなにもなく、手を離せば地上に落下するしかない。

 メイペは、かろうじてベビーカーを地上に落下させずに済んだ。
 だが、その状況は、絶望的に過酷であることに変わりない。
 左手一本で、自分の体と、ベビーカーを吊り下げているのだ。その光景ははた目には、にわかには信じがたくもある。小柄な人間が一人で、赤ん坊とはいえ、ベビーカーも含めたかなりの重量をささえているのだ。
 メイペ・シノリの、類い希な身体能力と讃えたところで、なんの救いになるだろうか。
 メイペの整った顔が、苦痛にゆがむ。額の汗は、もはや絞ったようにしたたり落ちる。
 すると、事態は、もっと深刻に遷移しつつあった。
 ベビーカーの赤ん坊が、目を覚ましてしまったのだ。
 メイペはあせった。もし、この状況に、赤ん坊が気づき、恐れを抱いてしまったら。
 暴れ出してしまったら・・・
 ぎりぎりのバランスで吊り下がっているベビーカーから、赤ん坊は転落してしまうかも知れない。
 まだ寝ぼけまなこの赤ん坊は、メイペと目が合うや、花のような微笑みを送ってきた。
 この子の、今の落ち着きを保つには、どうしたらいい・・・?
 このまま、ベビーカーでおとなしくしていてもらうには・・・

♪ねむれ・・・ねむれ・・・いとしい、みどりご・・・♪
♪ははのむねに・・・いだかれ、せいれいに、まもられ・・・♪
♪すこやかな、ねいきを・・・うたごえに・・・かさねて♪
♪うるわしき、きみのゆめ、つきとほしに・・・にじをかけて♪

 メイペは、とっさに歌っていた。
 汗ににじむ笑顔を、赤ん坊に返して。
 赤ん坊は、その歌声に、ふたたび笑顔の花を、つぼみのように閉じた。
 メイペに命を託している事実を、受け入れたかのように、寝息を立てる。

 だが、稀代の実力派スイーパー候補生メイペでも、握力の限界は近づいていた。
 右手、左手、どちらを離してしまっても、目を覆う悲劇が待っている。
 メイペの子守歌は、事態を見ているしかない人々の、胸を締め付ける。

 と、その時。

「その手を離すな!」

 意識までも遠のきかけたメイペの耳に、稲妻のように届いた声。
 いつの間にか、メイペの隣に、一人の少年の姿があった。
 メイペは、目を疑った。
 その少年は、レンジャー部隊の隊員のように、体にロープを巻き、スカイパークからぶら下がっていたのだ。壁からの距離があるため、ロープのみで体を支えねばならず、リペリング降下のようなロープ巻きをしている。
 スノーボーダーのようなジャケットに、額に上げたキツネの面のようなゴーグル。精悍な小麦色の肌に、意志の強そうな眉。
 そして、どこまでも澄み切った、緑の瞳。
 それは、トラッシュだった。
「今、助けるからな! 絶対に手を離しちゃだめだ!」
「・・・お願い、赤ちゃんを先に・・・」
 絞り出すようなメイペの声に、トラッシュは、
「わかった」と答えて、ベビーカーから赤ん坊を、大事に大事に取り上げた。
 見上げる市民たちは、息を飲んでその光景を見守っている。
 赤ん坊を抱きしめて、トラッシュは、メイペを優しく力づける。
「待ってろ、赤ん坊を助けたら、次はキミだ」
 メイペは、苦悶の表情を押し隠すように、汗で濡れた笑顔をトラッシュに向けた。
「いいぞ! 降ろしてくれ!」
 トラッシュは、上に向かって叫んだ。スカイパークでは、トラッシュを吊り下げているロープの端を、数人の男たちが引っ張っていた。メイペの体を張った赤ん坊救出劇を、そして危険なロープ降下をかって出たトラッシュを、だまって見ていられなかった男たちだ。
 勇ましいかけ声をかけて、男たちはロープをゆっくりと降ろす。赤ん坊を抱きかかえたトラッシュの体が、徐々に下降していった。
 ついにはトラッシュは地上にたどりつき、下で待っていた別の男が赤ん坊を受け取った。

 ワアアアアァァァ・・・

 先ほどにもまして、スカイパークを中心に、周辺に歓声が広まった。
 急いで降りてきた赤ん坊の母親は、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、我が子を抱きしめ、うずくまった。
 ここへ来ても、赤ん坊はすやすやと眠っていた。
 だが。
「キャアアアァァァッッ!!」
 今度は、地上の観衆から悲鳴が聞こえた。トラッシュはあわててメイペを見上げた。
 メイペの右手からベビーカーは滑り落ち、同時に、メイペの左手もズルッと手すりを滑ったのだ。

 ガッシャアァァンッッ!!

 ベビーカーは5階の高さから地上に落下し、こなごなに粉砕した。
 まだ、かろうじて手すりにぶら下がっているメイペ。うつむくその表情はうかがい知れない。
「あきらめるな! 絶対、絶対助けてやる!」
 トラッシュは、そう叫ぶや、駐車場へと駆け出した。もう、ロープ降下では間に合わない!
『やっぱり、ウィンドボードを持ってきてれば・・・』
 だが後悔しても仕方が無い。できることをやるだけだ! それが「いちかばちか」でも・・・
 シュオオオオオオオォォンンッッッ!!
 トラッシュは、モペットのモーターを起動させた。チラリと、ぶら下がるメイペを見ると、表情を結んで、市庁舎の中にモペットで乗り入れた!
 トラッシュは、モトクロス選手のエキシビジョンのように、市庁舎の階段をモペットで登っていった。例によって、中古で買ったモペットではあるが、トラッシュは様々な改造を施し、並々ならぬ機動力を与えていた。

『キリィ大尉・・・申し訳ありません。こんなところでメイペは、大尉の期待を裏切ってしまいました・・・』
 メイペの左手が、とうとう手すりの端までずり落ちた。もう、後がない。
 その時だった。
 メイペの体は、市庁舎の5階の窓あたりまで下がっていたのだが・・・
 その5階の無人のフロアに、トラッシュのモペットが、猛スピードで乗り入れてきた!
 そのまま、陥没と共に崩落した壁の大穴を目指す。そこから見えるメイペの体はほぼ同じ高さ、だがそこからメイペまでは、2メートルは離れている。
 トラッシュはさらにモペットを加速し・・・

 シュオオオオオオオォォンンッッッ!!

 壁の穴から・・・飛び出した!
 そのまま、メイペに向かって、飛んでいく。
 右手でハンドルを握り、左腕で、メイペの体を抱きしめると、そのままの勢いで、道路をはさんだ向かいのビルの屋上へと降下した。
 トラッシュは、赤ん坊を救い出したときに、市庁舎の向かいのビルが4階建てで、メイペのぶら下がる高さよりもやや低い位置に屋上があることを見ていた。そこは病院で、屋上にはいくつもの物干し台があり、無数のシーツが干してあったことも。
 とっさに、これを生かして、いちかばちかの作戦を立てたのだ。
 トラッシュは、メイペを包み込むように抱きしめると、空中でモペットを蹴り、向かいの病院の屋上、干してあるシーツに突っ込んだ!
 ガシャッ!と、運転手のいないモペットは屋上に落下した。飛び出したトラッシュとメイペは、ドミノ倒しのように次々と物干し台をなぎ倒し、並んで下がっている無数のシーツにくるまれながら、ゴロゴロと転がっていった!
 何枚ものシーツが、クッションの役目を果たし、かつトラッシュたちが突っ込んだ勢いを殺して、ふたりを包み込んだ。
 とは言っても、トラッシュは体のあちこちをしたたかにぶつけ、かなり痛い思いをした。それでも、メイペの頭や、細い体だけは、自分の体で包み込んで守った。メイペは、もうろうとした意識の中にあっても、さっきの少年が自分を守ってくれている事実を認識し、体を預けた。
 メイペに、恐怖は感じられなかった。だってあの少年は、絶対に助けると言ったのだから。
 ようやく、ゴロゴロ転がるトラッシュとメイペは、シーツのロールキャベツになって、止まった。
 トラッシュは、荒い息をついて、目をむいていた。心臓はバクバク、アドレナリンだだ漏れだった。我ながら、ムチャクチャな作戦だったと思う。ヒビナに見られたら、またボロクソに言われそうだ。
 そして、腕の中のメイペに向けて、言葉を発した。
「大丈夫か、キミ! 生きてるよな!?」
 小刻みに震えるメイペの、華奢な体は、それでもトラッシュの胸をくすぐる息づかいと、熱いほどのぬくもりを伝えてきて、トラッシュは安堵した。
 メイペは、ゆっくりと顔を上げ、トラッシュと目を合わせた。
 トラッシュは、ハッと息を飲んだ。
 なんという、キレイな顔をしたコなんだろう・・・
 フード一枚で、気づかなかった。
 透きとおるような白い肌、ブロンドの髪は乱れ、その碧い瞳は潤んで、ふるふると震えている。危険な目に遭ったせいもあるだろうが、すがるようにトラッシュに熱い視線を送る。
 あんな壮絶な救出劇を演じた、同じ人間とは思えない。
「・・・大丈夫・・・みたいだね。どこか痛いところはある?」
「・・・いえ・・・あ、ありがとうございました」
「何言ってんの! キミがヒーローだよ! いや、この場合、ヒロインでいいんかな・・・?」

 トラッシュにささえられて、メイペは、4階建ての病院の屋上から、階下に降りてきた。
 病院のエントランスから出てきた、そのとき。

 ワアアアアアァァァ・・・

 途端に、彼らは大勢の市民に取り囲まれ、大歓声と、万雷の拍手を浴びた。
 赤ん坊を抱いた母親は、「ありがとうございます、ありがとうございます!」と、涙ながらに繰り返した。
 メイペは、力尽きたのか、がくん、と、その場に座り込んだ。トラッシュはあわててそんなメイペを支えた。
 メイペは、まだ震えの止まらぬ声で、トラッシュに訊いた。
「あ、あの、お名前を・・・」
「オレ? オレの名は、トラッシュ!」
「えっ!?」
 メイペの体を、電撃が走った! クタクタだった表情が一転、目をパチクリさせた。
 あらためて、トラッシュの顔を見る。確かに、資料で見た、コードネーム・イリーガル、自称トラッシュの顔だった。危機的状況の連続で、今の今まで、気づいていなかった。
 そういえば、アザク・ラガランディに似ている、気もする。
 動転したメイペは、つい、場の空気を一変する言葉を言ってしまった。
「じゃ、じゃあ、あなたが・・・イリーガル!?」
「へっ!?」
 思いも寄らぬ呼び名が、メイペの口からこぼれ出て、トラッシュもまた、面食らった。
 だが、それだけではなかった。
 歓声を上げていた市民たちが、その言葉に、一瞬静まりかえった。
「お・・・おい、聞いたか?」
「今、確かに、イリーガルって・・・」
「言った! 間違いなく」
「じゃ、じゃあ、この若者が、イリーガル・・・」

 ワアアアアアァァァ・・・

 またそこで、歓声がぶり返した。異様な熱気が、市民たちを包み込む。
 トラッシュは、ヤバイ! と、感じた!
「・・・逃げろ!」
「えっ!?」
 トラッシュは、とっさにメイペの手を握り、走り出した!
「おい、イリーガルだ! あのイリーガルが、この街にあらわれた!」
「いたんだ! 本当に! イリーガルが!」
「待ってくれ、イリーガル!」
 走り去るトラッシュとメイペ。その後を、市民たちは追いかけてくる。
「あの・・・あの・・・あの・・・」
 何が何だかわからないのが、メイペだ。トラッシュの手をしっかり握り、ともに走る。あんなに憔悴しきったメイペだが、トラッシュに合わせてか、ものすごいスピードで走っていた。

     ★     ★     ★

 旧市街のはずれ、廃屋となった倉庫に、トラッシュとメイペは、身を隠していた。
 外を、市民たちが駆け回っている。
「おい、いたか?」
「いや、こっちにはいない!」
「なんて足の速さだ! さすがはイリーガル、ってところか?」
 荒い息を整えようと、深呼吸するトラッシュ。メイペは、キョトンとするしかない。
 それは市民たちが、「伝説の救世主」、イリーガルを目の当たりにし、驚喜したために起こったパニックだった。
 かつて、ワグダたちがイリーガル、すなわちトラッシュの悪い評判を広めることで、なかなか重い腰を上げようとしないスイーパー、ヨザム・ヤキリギをその気にさせようとした作戦があった。だが、「イリーガル教」を名乗り、悪行の限りを尽くそうとしたワグダたちは、意に反して逆に市民を助ける、善いことばかりをしてしまった。そのために、イリーガル教の教祖たる、イリーガルなる人物は、現代の救世主であるという都市伝説ができあがってしまったのだ。
 そのイリーガルが、市民たちの目の前で、奇跡とも言える救出劇を演じて見せたのだから、騒ぎにもなろうというものだ。
 だが、それを知らない当のトラッシュは、市民たちの異様な熱気に気圧されて、つい逃げ出してしまったのだ。無理もない、イリーガルと呼ばれて今まで、彼は追われる対象だったのだから。
 今も、市民に見つかったら、袋だたきにされるんじゃないかと、戦々恐々なのだ。
 冷静になれば、そもそも、スイーパーのコードネームとしての「イリーガル」の意味を、市民たちが知っているはずはないのだが・・・
 薄暗い倉庫で、ようやく息も整ったトラッシュが、メイペに訊いた。
「なんでオレが、イリーガルだって知ってるの?」
「あ、あの、それは・・・」
 言いよどむメイペだった。
 だが、表情を結び直すと、ハッキリと言った。
「わたし、スイーパーの見習いなの」
「!!えええ・・・・」
 つい大声が出そうになって、トラッシュは両手で自分の口をふさいだ。
「ごめんなさい。でも、あなたには、うそをついてはいけない。そう感じたの」
「じゃ、じゃ、じゃあ・・・オレをつかまえる側なの?」
「・・・まだ、正式な辞令が出てないの。だから、今はそれはできないわ」
「そうか・・・って、じゃあ、これから辞令が?」
「たぶん・・・」
「はあ・・・」
 二人は、押し黙ってしまった。
 だが、トラッシュは、
「・・・まあ、でも、いいか?」
「えっ!?」
「それがキミの仕事なら、全力でかかってこい! オレは受けて立つ! なんて言ったら、かっこいいかな?」
「・・・・・・・・・」
「あっ、外した? オレ・・・」
「・・・フフッ、フフフフッ、ウフフフフフ・・・」
 メイペは、鈴を転がすような声で、笑った。
 トラッシュも笑顔で、
「ははっ、ウケたウケた!」
「あなた、面白いひとね、トラッシュくん」
「と、トラッシュくん?」
「あらためて、助けてくれてありがとう、トラッシュくん・・・わたし、メイペ・シノリといいます」
「メイペ・シノリ・・・いい名前だね」
「ありがとう。トラッシュくんもね」
「く、くん付けは、くすぐったいな・・・」
「くすぐったい?」
「そんな呼ばれかた、したことないもんだから・・・」
「じゃ、そう呼ぶわ。トラッシュくん!」
「ええっ!?」
「くすぐったくしたいの」
「・・・キミも、面白いコだね、メイペ」
「フフフッ・・・」
 ふたたび、潤んだ瞳で、微笑みながらトラッシュを見つめるメイペ。
「??」
 笑顔を返しながらも、内心いぶかしげなトラッシュだ。
 女の子に、そんなに熱い視線を送られたことなど、なかったから。
 いっぽうのメイペの心は、乱れていた。
 熱い透明な液体が、自分の体の中で、波打っているような、感覚があった。
 それは、どんどん自分の体を満たしてきて、あふれ出してくるような勢いで・・・
 体が火照った。震えた。心臓が跳ねた。肺が絞られた。
 初めての感覚。
 視界が、白くなっていく。
 メイペの体から、痛みが消え去った。
 いくつものシナプスが、一気につながれた。
 それは、新たなる価値観の誕生。

 倉庫の外は、いつしか静かになった。
 トラッシュは、メイペを引き戻す一言を発した。
「立てる?」
「あ・・・うん」
 トラッシュに手を取られ、メイペは、立ち上がった。
 トラッシュの手のぬくもり。鋭敏になった感覚が、匂いさえも伝えてくるような・・・
 心地いい。
「送っていった方がいい?」
「・・・ううん、大丈夫。スイーパーのオフィスまで、来るわけにはいかないでしょ?」
「じゃあ、ここで」
「うん・・・」
 メイペは、名残惜しいようでもあり、早くこの場を離れたくもあった。
 普通でない自分に気づいていた。混乱する自分を、整えたい。
 トラッシュは、メイペに背を向けて、歩いて行った。
 急に襲ってきた、切ない思いを、押し殺すようにメイペもまた、背を向けて・・・
 二人は、別々の道を、歩いて行った。

 トラッシュは、思っていた。
『しまったー・・・モペット、ぶっ壊しちゃったんだ・・・』
 歩いて帰れるのか、心配になった。

     ★     ★     ★

 砂塵が舞う、ブロンズの荒野。
 そこはかつて、ガベイジの洞窟があった場所。
「かつて」と言ったのには、意味がある。
 黒い革ジャンの男と、並んで立ち尽くす、赤い目のガベイジ。
 がくぜんと、荒野の一角をながめている。わなわなと震えながら。
 そこには、巨大な穴があった。深く巨大な、穴。
 洞窟の天井が、全て吹き飛ばされた跡だった。
 穴の底に、そこで暮らしていた人々の、生活の痕跡が、そこここに見える。
 ガベイジの部屋だった跡に、むしろと寝袋が、太陽の下にさらされている。
 ツルハシが転がっている。ナベやフライパンが転がっている。ゾウのぬいぐるみが転がっている。
 だが、人の気配は、無かった。

     ★     ★     ★

 スイーパー・ブロンズ地区第4方面支部では、ワグダ、カーリカ、そしてフォルケが、テレビニュースに釘付けになっていた。
『今朝、大規模な階層侵害者検挙が行われ、54名におよぶ違法滞在のウェイストが、スイーパーに連行されました。作戦に当たったのは、スイーパー・ブロンズ地区第1方面支部、オールギッズ・ベベルカーン司令官率いる精鋭部隊、総勢30名。ブロンズの市民は、長期にわたり居座り続けた違法滞在者たちの存在に、不安な暮らしを送っていましたが、ひとまず胸をなでおろすことでしょう』
「これ、この間の、ガベイジとかいうヤツがかくまってた連中だよな?」
 ワグダの問いに、カーリカが答える。
「イリーガルが加勢してた、あの洞窟ですわよね? わたくしたちがあんなに苦戦したというのに、あっさりすぎませんこと?」
「ガベイジの、あんな強力なアートがありながら、不思議ですよね・・・」
 フォルケも首をかしげる。
「そのガベイジはどうなったんだ? 一緒に捕まっちまったのか?」
 ニュースは、まだ続いていた。
『なお、今回の大規模検挙には、ちまたで話題を呼んでいる、イリーガル教の教祖・イリーガル氏の協力があったとウワサされており、市民の間では、またしても救世主イリーガルがブロンズを救ったと、賞賛の声があとを絶ちません』
 ワグダ、カーリカ、そしてフォルケは、三人とも目をまん丸にして、お互いを見合い、沈黙した。
 そのすぐ後には・・・
「な、な、な、なんだってえええぇぇぇ〜〜〜〜っっ!!??」

     ★     ★     ★

 旧市街の郊外、小高い丘の上のキャンプ。
 タープの下のテーブルに、ヒビナの姿があった。
「まったく・・・! どうしてこんなチャチな指輪が外れないのよ! あたしのアートをもってしても!」
 ガベイジにつけられた、右手の薬指の指輪を、必死にはずそうと悪戦苦闘していた。
 それにまったく興味を示さないシャマルは、黙々と読書にいそしんでいる。エトワは、たき火でマシュマロをあぶっていた。
「あーーーッ!もう! ガベイジのヤツ! ただじゃおかないんだから!」
「オラがどうしたって!?」
「!!??」
 ヒビナが、その声に、あたりを見回す。
「キツネゴーグルの野郎は、どこにいる! ヒビナ!」
 声のする方向を振り仰ぐと、タープの支柱の上に、ガベイジが、片足一本で立っていた! 驚くべきバランスだ。
「が、ガベイジ! アンタ!」ヒビナが叫んだ。
 突然のちん入者に、シャマルも驚き、身構える。
「キツネはどこだと訊いてるんだ! 亭主の質問に答えろ!」
「誰が亭主よ! いいかげんに・・・」
 ヒビナの言葉を最後まで聞くことも無く、ガベイジは、タープの上から、フッ!と姿を消した!
「!!??」
 ヒビナが驚嘆する一瞬の後、ガベイジはヒビナの背後にいた。
 ヒビナの右手首をつかみ、高く持ち上げる。ヒビナの体が吊り上げられる。
「イタタタタ・・・乱暴はよしてよ! ケダモノ!」
「言葉の通じないヤツに、ケダモノ呼ばわりされたくねえな!」
「ガベイジ! おまえ・・・」
 駆け寄ろうとするシャマルを、ガベイジは制す。
「手エ出すな! ノッポ野郎! オラが用があるのは、キツネだけだ!」
 その時。
「ヒビナ!?」
 その声の主は、トラッシュだった。両手にポリタンクを下げている。旧市街の騒動から戻った後、水をくみにいっていたらしい。
 ガベイジの赤い瞳が、さらに燃え上がるような灼熱の色彩に変わる。
 トラッシュは、
「なにしてる、ガベイジ! ヒビナに手荒なまねはやめろ! 女の子だぞ、ヒビナは!」
「オラの女に、なにしようと指図される筋合いはない!」
「だれが・・・アンタの・・・女よ!」
 ヒビナは、ガベイジに膝蹴りを繰り出す!
 だが、ガベイジはびくともしない。ヒビナは、それまで見たことのないガベイジの形相に、背筋が寒くなった。
 ガベイジは、ヒビナの右手首を離した。ドサッ!と、地面に崩れ落ちるヒビナ。
「ヒビナ!」
 エトワがヒビナに駆け寄る。
 ガベイジは、そんなことには目もくれず、トラッシュに向かって、歩みを進める。
 シャマルが、遠巻きにガベイジを警戒して間合いを取る。
「おまえ、どうにも気にくわない野郎だったが、口先だけのクズ野郎だったんだな! ええ!?」
 ガベイジのそんな言葉に、鳩が豆鉄砲なトラッシュだ。
「はあ? 何言ってんの?」
「問答無用!」
 ガベイジは、トラッシュに向かって駆け出し、右拳を繰り出した!
「うわっ!」
 トラッシュは、かろうじてガベイジの拳をよけた! ポリタンクを落とし、後方にすばやくジャンプする。
「ガベイジ! なんなんだよ! ムチャクチャだぞ!」
「おまえが、オラの洞窟をムチャクチャにしたんだろうが!」
 間髪を置かず、ガベイジはトラッシュに飛びかかり、左右のパンチを繰り出す。
 トラッシュは、いつもの軽快な身のこなしで、それをかわし続けるが・・・
「待て! 待て待て! 何言ってんのか、全然わかんねえよ!」
「しらばっくれんな! オラの仲間をスイーパーに売っただろう!」
「はあ? 仲間って、洞窟の・・・?」
「仲間ヅラして助けたのは、油断させるためだったのか? どうせスイーパーに金でもつかまされたんだろう! しょせんキツネはキツネだな!」
 一方的にまくし立てられ、パンチを繰り出されるトラッシュに、シャマルは、
「トラッシュ!」と叫んで、駆け寄ろうとするが、
「待て、シャマル! 手を出すな!」
「なんだよ、またかよ!」
「言ってることはわかんないが、ガベイジはオレを敵視してる! 反撃したら、オレも敵だと認めることになるだろ!」
「敵だ! おまえは!」
「だから、何があったか、聞かせろってば!」
 すると、ガベイジは、手を止めて、拳を握りしめて、ワナワナと震えた。
「見たんだよ! おまえのやったことを!」

 少し前のこと。
 黒い革ジャンの男が、タブレットPCでガベイジに動画を見せている。
 ブロンズの荒野で、一人の人影、後ろ姿が映っている。
 その人物は、両手を突き上げた。
 すると、画面が揺れ出した。地震でも起こっているかのように。
 いや、まさに地震なのか、地面に亀裂が入り出した。
 と、とつぜん、ドオオオンンッッ!!という大音響と共に、地面が大きく割れ、地盤が空へ向かって吹き飛んだ!
 その下には、洞窟があった。洞窟の天井が、人物の動きに呼応するかのように、吹き飛んだのだ。それが、その人物のアートのように見える。
 と、白日の下にさらされた巨大な穴に向かって、周囲から、スイーパーの大部隊がなだれ込んだ。それにつれて、穴からは、大勢の人間が、わらわらと逃げ出してきた。
 スイーパー部隊は、網を投じ、あるいはスタンガンを発射し・・・穴から逃げ出した人間たちを捕らえた。
 ガベイジは、食い入るように、その動画を見ていた。拳を握りしめ、打ち震え、息は荒く。
 天井を吹き飛ばした人間、その後ろ姿は、スノーボーダーのファッションに、後頭部にキツネのしっぽのアクセサリ。
 その姿に、ガベイジは目をむいた。
 画面の人物は、撮影に気づいたかのように、こちらを振り返った。
 その顔は、まさしく、トラッシュ!

「バカな! オレはそんなことしない!」
「そんな戯言が通用するか! 撮られてることに気づいてなかったんだろ! まちがいなく、あれはおまえだった!」
「見たって、なにをどう見たんだ?」シャマルの問いに、
「なんかこう、板きれみたいな機械で、テレビみたいに・・・」
「そんなの、いくらでも偽装できるわよ! バカじゃないの!?」
「目利きの割に、機械には弱いんだな・・・」と、トラッシュ。
「うるせえ! どいつもこいつも信用ならねえ! 機械だのネットだので煙に巻きやがって!」
 ガベイジは、拳を握りしめる。
「おまえは許さん! 絶対に!」
 ガベイジは、再びトラッシュに飛びかかる。
 すると、トラッシュの目の前に、小さな人影が滑り込んだ!
「ガベイジ! トラッシュは、うそはつかないよ!」
 エトワだった。
「エトワ、どけ! 危ない!」と、叫ぶトラッシュ。
「ジャマだ! チビ! おまえごとぶっとぶぞ!」
 エトワは、キッと表情を結び、一歩も引かない!
 ガベイジの右足の回し蹴りが、エトワごとトラッシュをなぎたおす、そう思えた瞬間!
 それは一瞬の出来事だった。
 トラッシュは、エトワを抱きかかえ、そのまま体を右回転させて背を向け、エトワをかばう。さらにコマのように体を回転し、右足のキックを、ガベイジの蹴り足にぶつける!
 ヒビナとシャマルは、トラッシュとガベイジの互いの右足がぶつかった瞬間、火花が飛び散ったように感じた。
 トラッシュとガベイジ、どちらも引かず、二人は右足をクロスしたまま、片足立ちしていた!
 トラッシュの目が、怒りに燃えている。
「エ・ト・ワ・に・ふ・れ・る・な・・・」
 地の底からわき上がるマグマのような、怒りの声を発した。
 トラッシュは、エトワを抱いてジャンプし、シャマルとヒビナの元へ着地した。
「エトワを頼む・・・」
「あ、ああ・・・」
 これまでに見たことのない、トラッシュの怒りの形相に、シャマルは気圧されていた。
 そしてトラッシュは、ガベイジの元へ駆けてゆく!
「うがあああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!」
 トラッシュとガベイジ、二頭のケモノが、激突する!

     ★     ★     ★

 それを、離れた場所から双眼鏡で見ている人物が一人。
 黒い革ジャンに黒のジーンズ。サングラスをはずしたその姿は、デタン・デズ・デギウスだった。
「見ろ、思ったとおりだ・・・ガベイジとやら、実に単純だな」
 デタン・デズの隣で、その言葉を送られたのは、スノーボーダーの格好をした、少年。
 その顔は・・・トラッシュそのものだった。今、まさにガベイジと戦っているはずの少年。
 だが、その少年が、手で顔をグシャグシャッ!とこねると・・・
 まったく別人の、少女の顔に変わった!
「ザザには失望したが、弟子のおまえは、オレの期待を裏切るまいな?」
「おまかせを・・・」

     ★     ★     ★

 トラッシュとガベイジは、すさまじいスピードとパワーで、パンチとキックを繰り出していた。
 だがそれは互いにヒットすることは無く、かわすスピードもお互いに並外れている。
 ズサッ!と、ともに二人は後ずさりし、いったん手を止めて、にらみあう。
「これでは、ラチがあかないな・・・」
「まともにぶつかりあっても、ダメだということか・・・」
「なら・・・!」
 トラッシュの目が、紫に光る!
 ガベイジも、同じく目を赤く輝かせ・・・
 互いのアートを発動した!
 まず、ガベイジが、
「ガアアアアアァァァッッッ!!」
 ズドドドドドドドドドッッ!!
 吠えながら、両手のパンチを地面に連打する!
 と、無数の「土の拳」の連打が、地面から立ち上がる!
 トラッシュは、ジャンプしてそれをかわすと、左の拳を握りしめる。
 左手を包み込む紫の光が、キツネの姿に変わっていく。
 いや、それはトラッシュの怒りを反映しているのか?毛皮の代わりに「紫の炎」をまとった、巨大なキツネが誕生した!
「うおおおおおおぉぉぉっっっ!!」
 トラッシュが左のパンチを繰り出すと、巨大な「光のキツネ」が解き放たれ、ガベイジの元へ駆けていく!
 ガベイジは、両手を天空に向けて突き上げた! すると、地面を割って、直径7メートルはあろうかという、巨大な岩が空へ舞い上がった!
 ガベイジが右腕をシャドウピッチングのように振ると、巨岩は「光のキツネ」目がけて飛んでいく!
 巨岩と、「光のキツネ」が、正面からぶつかり合う!

 グワアアアアアアアァァァッッッ!!

「光のキツネ」が、巨大な口を開き、光の牙が巨岩をかみ砕く!
 だが、ガベイジはすかさず2個目の巨岩を放ち、こんどは「光のキツネ」は光の破片に砕け散る。
 トラッシュが、何度も左手のパンチを繰り出すと、「光のキツネ」の大群が、ガベイジを襲う。ガベイジもまた、いくつもの巨岩と、「土の拳」の連打をトラッシュに向けてたたき込む。
 砕け散る、岩と光と土の破片が、当たりを包み込み、視界をさえぎる!
 ヒビナも、シャマルも、エトワも、言葉を発することも出来ず、息を殺して見守るしかない。
 ヒートアップする、トラッシュとガベイジのアートのぶつかり合い。
 やがて、トラッシュの体も、ガベイジの体も、それぞれが紫と赤の光に包まれ、それがやがて光の竜巻のようにふくれあがり・・・
 二つの竜巻がぶつかり合った!
 火花が飛び散る!
 シャマルは、
「まずい! オレたちも巻き込まれるぞ!」
 ヒビナとエトワと共に、その場に伏せた!
 ぶつかり合う光の竜巻、火花はいつしか放電、いや雷になり・・・

 ドガアアアアアァァァンンッッッ!!!!

 爆風を巻き起こした!
 土煙が当たりに漂う。
「ゴホッ・・・ゴホ・・・トラッシュ・・・無茶しやがる!」と、シャマルは土ぼこりを払い、
「トラッシュはどうなったの! 勝ったの?負けたの?」と、ヒビナはハンカチで口を覆う。
「トラッシュゥゥゥ!!」
 叫ぶエトワ。
 やがて、土煙が晴れていくと・・・
 そこには、巨大なクレーターができあがっていた。
 爆発音を合図にしたかのように、クレーターには静寂が訪れた。
「と、トラッシュはどこ? どこに行ったの?」ヒビナは、当たりを見回しながら・・・
「まさか・・・粉々に吹き飛んだ・・・」と、シャマル。
「バカなこと言わないでよ!」
 と言いつつも、ヒビナは青ざめる。
 すると、エトワが、
「あっ! あそこ!」
 上空を指さした!
 そこには・・・
 二つの光が、飛び交いながら、ぶつかり合っていた。紫と赤の光。
 それは、トラッシュのウィンドボードと、ガベイジのウィンドスレッジのぶつかり合いだった。

 ガキッ! バキィッ! ガシャアァッ! ドガアアァァッッ!

「はあ、はあ、はあ・・・」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ・・・」

 トラッシュも、ガベイジも、息も絶え絶えに、空中でぶつかり合う。もはやかわすスピードもなく、まともにパンチやキックが入っている。
 やがて、ウィンドボードと、ウィンドスレッジは、真っ正面から向かい合い・・・
 猛スピードで、飛行すると、正面からぶつかった!
 トラッシュとガベイジは、互いに頭と頭を、激しくぶつけた!

 バキャアアアァァァッッッ!!!

 それは、お互いに致命的な一撃だった。
 ウィンドボードとウィンドスレッジは、クレーターに向かって落下した。
「あーあ・・・」
 シャマルとヒビナは、あきれ声を上げた。
 エトワは、心配そうに見守る。

 ドカアアアアァァァンンッッ!!

 トラッシュとガベイジは、クレーターに落ちた。
 二つの大きな穴が空いた。
 シャマルとヒビナは、クレーターを駆け下りて、それぞれの穴をのぞき込んで・・・
「おお〜い、生きてるかぁ〜・・・」
「バカなんだから・・・気が済んだ?二人とも・・・」
 と、ヒビナののぞき込んだ穴から、腕がにょっきりと伸びてきて、ヒビナの襟首をつかんだ!
「ひぃっ!?」
 穴から、ぴょーーんとガベイジが飛び出し、
「ヒビナ! キツネ野郎はどこだ!」
「オレならここだ!」
 トラッシュも、シャマルがのぞき込んでいた穴から、ぴょーーんと飛び出した。
 二人とも、ひたいにどでかいタンコブが出来ている。
「決着つけてやる! キツネ野郎!」
「望むところだ! 赤目!」
 二人はまた、にらみあった。
「ううぅ〜〜〜・・・」と、犬のようにうなり合う。
 と思うと、互いに、ダッ!と後ろにジャンプして距離をとったかと思うと、ウィンドボードとウィンドスレッジで、ふたたび空へと舞い上がった!
「懲りないヤツら・・・」
 あきれているシャマル。
 トラッシュとガベイジが、またしても、真っ正面からぶつかり合おうとした、その時!

 ドオオオォォンッッ!!
 ヒュルルルル・・・・・・
 バサアアァァッッ!!

 砲撃の音、そして何かが飛来する音がして、トラッシュとガベイジ、それぞれに、ネットのようなものが覆い被さった!
「なにいいいぃぃっっ!!??」
「なんだああぁぁっっ!!??」
 ネットはそれぞれ二人をからめ取り、そして地上に落下した。
 それは、鉛で出来た網。トラッシュも、ガベイジも、網をはねのけようともがくが、鉛の重さもあり、抜けだせない。
 ヒビナは、その網に見覚えがあった。
「これは・・・スイーパーの装備! まさか!?」
 ヒビナが、周囲を振り仰いだときは、すでに遅かった。
 クレーターの回りを、40人は下らない、スイーパー隊員が取り囲んでいた。
 手には、ライフル型スタンガン。
 バズーカのような太いパイプ状の「マルチディズチャージャー」を構えている者もいる。トラッシュとガベイジを捕らえた網を発射したのだろう。
 クレーターの底、ヒビナたちの元へ、ゆっくりと歩みを進めてきた、スイーパー制服の女性。赤毛をアップにまとめている。ブロンズ地区第1方面支部司令、オールギッズ・ベベルカーン準士官だ。
「全員、手を上げて」
 オールギッズは、おごそかに言葉を発した。
 さすがにこれだけの数のスイーパー隊員に囲まれては、手の出しようもないシャマルやヒビナは、観念して手を上げた。エトワは、ヒビナにしがみついていた。
 スタンガンを構えた二名の隊員を従えて、オールギッズは、トラッシュたちのもとに歩み寄る。
 そして、地面に転がる、鉛の網にとらわれたガベイジに、冷ややかな視線と落とす。
 網の中のガベイジは、かみつかんばかりの形相でオールギッズをにらむ。
 続いて、トラッシュに目を向けるオールギッズ。同じく網にくるまれたその姿を見るや、
「おやおや、これはイリーガル・・・」
「!!??」
 もちろん、スイーパーなのだから、オールギッズがトラッシュやイリーガルのことを知っていても、何の不思議もない。
 だが、オールギッズがここで言った「イリーガル」には、別の意味があった。
「今朝はまたしてもお手柄だったようね? さすがは救世主イリーガルと言ったところかしら。われわれスイーパーにとっては、そのメンツを潰してくれたイリーガルが、いっぽうでは人の命を救った救世主だというのだから、皮肉なものね」
「はあ?」
 トラッシュは、オールギッズの言葉に、一瞬面食らったが、
「今朝のことって・・・」
 メイペ・シノリとともに、赤ん坊の命を救ったあの事故のこと。思い出してトラッシュは腑に落ちた。
 だが、ヒビナやシャマルは違った。
「ちょ、ちょっと! なに?今の話? 聞いてないわよ?」
「あら?あなたたちはイリーガルの仲間じゃないの?」
 トラッシュは、旧市街での出来事を、ヒビナたちに話してはいなかった。
 夢の女神にそそのかされたかのように、旧市街へとフラフラ出かけたことをとがめられたくなかったし、なにより、メイペとの出会いを、なんとなく照れくさくなって言えなかったのだ。というか、それらひっくるめて、説明がめんどくさかったのだ。
 オールギッズは、旧市街で起きたクレーン事故、そしてトラッシュの人命救助について話した。
 スマートフォンで、すでにネットに上がっていた写真まで披露して。
「じゃあ、階層侵害者の摘発に、イリーガルがからんでるって話は?」
「そんな事実は無いわ」
 シャマルの言葉に、オールギッズはさらりと答える。ネットではそんなウワサがあることはあるのだが、確認された事実は一つも無いのだと。
 ヒビナは、火を吐くような勢いでまくし立てる。
「ちょっとお! ガベイジ! 聞いた? トラッシュにはアリバイがあるじゃない! 洞窟が襲撃されたのが今朝のことなら、トラッシュはそんとき、旧市街にいたのよ!」
「そんなバカな! オラはこの目で見たんだぞ!」
「だから、でっち上げの動画をだろ! 誰だよ!それを見せたってやつは?」シャマルの問いに、
「知るか! いいもの見せてやるって言うから・・・」
「なんでトラッシュを信用しないで、そいつなら信用するのよ! 根拠はなんなの! 根拠は!」
「うるせえうるせえうるせえ! 難しいこと言うな! 頭が痛くなる!」
「頭痛くなるのはこっちよ! アンタは要するに、自分の思いこみにつけこまれて、都合のいいほうを信じてるんでしょうが!」
「あー・・・いいかしら? あなたたちは立場というものがわかってるの?」
 オールギッズの言葉に、スタンガンを突きつけられている事実さえ忘れてまくしたてていたヒビナは、小さくなった。

     ★     ★     ★

 スイーパー・ブロンズ地区第1方面支部。
 ここは、その留置場だ。
 トラッシュ、シャマルは一つの牢に、そして隣の牢には、ヒビナとエトワが留置されていた。ガベイジは別棟に拘留されているようだ。
「オレ、とうとうスイーパーに捕まっちまったのか・・・」
 嘆くトラッシュに、
「まったく、ゴールドを目指すはずが、ブロンズで幕引きかよ・・・」
 愚痴をこぼすシャマル。
「ああ、キリィ・キンバレンさま・・・ヒビナはあなたのもとにたどりつくはずだったのに・・・」
 ヒビナが嘆く。
「おなかすいた・・・」
 言うまでもなく、エトワだ。
 そこへ、ガドマール・ゾラスト士長が現れ、
「イリーガル、そしてその仲間。オールギッズ司令がお呼びだ」
「はあ?」

     ★     ★     ★

 スイーパー・ブロンズ地区第1支部オフィス、支部長のオープンオフィスに、トラッシュ、ヒビナ、シャマル、エトワがいた。支部長オールギッズ準士官が座るデスクの前に、並んで立っている。
「しゃ・・・釈放!? なんで!?」
 トラッシュは、目を丸くし、声を裏返して言った。
「釈放は釈放よ。うれしくないの?」オールギッズの言葉に、
「そ、そりゃうれしいけど・・・」
 喜んでいるヒビナやエトワをよそに、いぶかしげなトラッシュだ。シャマルも、腑に落ちないという表情をしている。
「詳しくは言えないけど、『上』の判断よ。帰っていいわ」
「ちょ・・・待ってくれ、ガベイジは・・・どうなる?」
「スイーパー相手に、階層侵害者をかくまった罪状、それに、彼自身も階層が判明していない。そこは追求を逃れられないわね」
 ヒビナは、
「トラッシュ、そんなこと、どうでもいいじゃない! 長居は無用よ! さっさと引きあげましょう?」
 だが、そんな言葉には耳を傾けず、トラッシュはオールギッズに、
「なあ、アンタ・・・アンタらスイーパーも人間だろ! よその階層からブロンズに入り込んだんならともかく、もともとブロンズの人間が、ダウンシフトしたからって、階層侵害者呼ばわりはあんまりじゃないか? そのせいで、ブロンズの家族がバラバラに引き裂かれるのなんて、おかしいと思わないのか!?」
「と、トラッシュ! 余計なことを・・・」
 ヒビナはアセった。イリーガルでありながら、理由はわからないにせよ、せっかく自由の身にしてくれるというのに、ムダにスイーパーの司令官を刺激してどうすんのよ!
「家族の絆ってモンは、何よりかけがえのないものだろう!? あんたらにそれを踏みにじる権利があるのか?」
 トラッシュは食い下がる。それに対し、オールギッズは、
「ルールはルールよ。そこをうやむやにしたら、階層という秩序そのものが崩れ去る。そのほうが、よっぽど市民の生活を危険にさらすことになるわ」
「ルール、ルールって、ルールがそんなに大事か! 人の血が通ってると言えるのか!」
「ルールがなぜ大事か、わかる!?」
「え・・・?」
 ピシリと、威厳を持った声が、トラッシュにぶつけられた。
 だがそれは、決して恫喝的ではない。
「ルールがなぜ大事か、なぜルールは破られてはいけないか。それは、どんなルールでも、人の血と汗が生み出したものだからよ。そこに費やした、人の思いや時間や労力、それらを、ムダにすることが、正しいとでも言うの?」
「そ、それは・・・」
「悪法も法なり、と開き直るつもりはないわ。でもね、ルールが生み出された背景もプロセスも知らずに、都合が悪いから、ルールが間違っているから、それを守らなくても良い、そんなリクツがまかり通ったら、それこそ人の心や、血と汗を踏みにじることになる。違う?」
「・・・・・・・・・」
「ルールが間違っているなら、ルールを変えるべきよ。同じくらいの血と汗を流して、多くの人々の同意と信頼を勝ち取って、初めてルールは変わるの。それをせずに、否定するだけでは、結局、新しいルールも、誰かの都合で踏みにじられるわ」
 トラッシュは、返す言葉を失った。
「・・・でも、これだけは忘れないで。ルールとは、魂を従わせることじゃない。わたしは立場上、『あなたの気持ちはわかる』と言うわけにはいかないわ。けれども、人が傷つくことを受け入れられないあなたの心は、大事にして欲しいな」
 オールギッズは、優しい微笑みをたたえて、言った。
「・・・わたしの夫も、ダウンシフトしたの」
「ええっ!?」
「いま、夫はウェイストにいるわ。それでも、絆が失われたとは思っていない。あなたの望む答えとは違うでしょうけど、そういう人間もいるということは、知っておいて」

     ★     ★     ★

 スイーパー・ブロンズ地区第1方面支部を後にする、トラッシュ、ヒビナ、シャマル、エトワ。
 オールギッズは、二階の窓から、彼らの後ろ姿を見つめる。
 ガドマールが、不満たらたらでこぼす。
「まったく、せっかくイリーガルを捕らえたというのに、なんで釈放しなきゃならないんです! しかも捕獲した事実もろとも、なかったことにしろ、だなんて!」
「言い分があれば、キリィ・キンバレン大尉に、直接言うことね」
「そ、それは・・・でも、この支部始まって以来の快挙なんですよ! あんな大物を捕まえたってのは・・・」
「ボーナス、出るわよ」
「は?」
「イリーガルを確保したのは事実だからって、それに相当するボーナスが、全員に出るんですって」
「まあ、『上』にもいろいろ事情はあるでしょうから、われわれがどうこう言うことはないんですが・・・モゴモゴ」
 そのいっぽうで、オールギッズは、考えていた。
『あの、洞窟の天井を吹き飛ばすほどのアートを持つ士官・・・デタン・デズ・デギウス中尉は、なぜ、わたしたちに手を貸してくれたの? 士官クラスがやるような仕事じゃないのに・・・』
 腑に落ちない点は、まだある。
『確かに、階層侵害者の摘発に、イリーガルが一枚かんでいるというウワサは、ネットを中心に広まってる。いったいなんで、そんな根も葉もないウワサが・・・ まるで、階層侵害者の摘発は、それ自体が目的ではなく、何かの手段でしかなかった、わたしたちも、誰かの意図で踊らされてた、とでも言うのかしら・・・』

 無言で、何事か思案顔で歩いているトラッシュ。ヒビナは晴れ晴れとした顔をしているが、シャマルは難しい表情だ。エトワは・・・いつも楽しそうだ。
 と、トラッシュたちの前に、立ちはだかる者がいた。
「パビク・・・!?」
 トラッシュは、その名を呼んだ。
「おまえ、無事で・・・そうか、ブロンズだもんな」
「頼みがあるんだ、トラッシュ」
「!?」

     ★     ★     ★

 郊外の幹線道路を走行している、バンタイプの乗用車。後部は、四角いコンテナの形状だ。その中には、スタンガンを抱えた三人のスイーパー隊員と、ガベイジ。ガベイジはさるぐつわをはめられ、手足を頑強な錠で拘束されている。
 つまりは、護送車だ。ガベイジは、アート使い専門の取り調べ施設に送られている途中なのだ。アートを持つ者は、特殊な設備を持つ施設でなければ、逃げられたり、反撃されるおそれがあるためだ。
 とうぜん、市街地や住宅地からは隔絶された遠隔地にあるその施設、幹線道路には、護送車の他に走行している車はない。
 と、順調に走行していた護送車が、急激にスピードを落とす。
「どうした、故障か?」
「いや、どこもおかしくなさそうなんだが・・・」
 首を傾げる、運転手と助手席のスイーパー隊員だ。
 まるで、分厚い綿の中につっこんだかのように、護送車は押し返される感覚があり、じょじょにスピードを落とし、やがては停止した。運転手がアクセルを踏み込んでも、キキィィ・・・と、駆動輪が煙を上げて空回りするだけだ。
 その時だった。
 護送車のテールエンドの、ドアロック、テンキー付きの電子ロックに、ガチャッ!と、タバコの箱サイズの機械が、貼り付いた!
 誰かが投げたのか?
 それは、ピピピピ・・・と電子音を上げると、ドアロックのディスプレイに乱数が表示され・・・
 ガシャアンン・・・
 重い音とともに、テールゲートが開いた!
 電子ロックが解除されたのだ。
「!? 何事だ?」
 あわてたのは、警備のスイーパー隊員だ。すると、ガベイジはその隙を見逃さず、車外に向かって駆けだした! 手錠、足錠が付いているので、カエル跳びにもかかわらず、野生児ガベイジはとてつもなく敏捷だ。
「あっ! 待て、逃げると撃つぞ!」
 三人のスイーパーは、スタンガンをガベイジに向けて構える!
 その時、テールゲートは、バンッッ!と閉じられた。そして電子ロックに貼り付いた機械の、ボタンをピピピ・・・と操作するものがいた。
 トラッシュだ。
 三人の警備は、護送車に閉じこめられた。
 ドンドンドンッッ!と、テールゲートを内側から叩く音。
「おい! 誰がこんな! 開けろ! 開けないか!」
「おかしい! 暗証番号をいれてるのに、開かない!」
 電子ロックに貼り付いた機械をはがし、トラッシュは、
「暗証番号、書き換えちゃったから、開かないよーーん」
 すると、運転席では、
「おい! どうした! 何があった!」
「待て、こっちもドアが開かない!」
 護送車の異常事態にあわてる運転手だが、運転席のドアもロックされてしまったようだ。
「ヒビナ、もういいぞ」
 トラッシュがそう言うと、幹線道路脇の物陰から、ヒビナが現れ、護送車に向かって、人差し指を向ける。

 キキキキイイイィィッッッ!!
 ドオオオオンンッッ!!

 護送車は、タイヤのスキール音を盛大に上げ、後ろからけ飛ばされたように、猛ダッシュで発車した!
「うわあああああっっ!!」
 そのまま、100メートルほど走ったのち、急ブレーキで停車した。
「今のうちだ!」
 ブオオオオンンッッ!!
 道路脇から、トラッシュのキャンピングカーが現れた。シャマルが運転している。
 トラッシュは、逃げようとするガベイジの、首根っこを捕まえていた。
 後部座席のドアを開け、エトワが手招きしている。トラッシュはガベイジを後席に押し込むと、ヒビナとともに乗り込んで、護送車と反対方向にキャンピングカーは走り出した!
 護送車は、ヒビナのアート、物質の密度をコントロールするワザで、空気の壁につっこんで停められた。その壁を一気にはずしたので、アクセルを踏み込んでいた護送車は、ロケットスタートで走り出してしまったのだ。

 キャンピングカーの後部座席で。
 トラッシュの、機械の構造を一瞬で見抜くワザがあれば、ガベイジの手錠、足錠など、造作もない。あっという間にそれははずされてしまった。
 さるぐつわをはずすなり、ガベイジは、
「てめえ! こんなことしても、罪滅ぼしなんかにゃなんねえぞ!」
「罪なんかおかしてませーん!」
「なめてんのか! このやろう!」
 すると、トラッシュは、前方をちょいちょい、と指さした。
 窓の外に、パビクと、数名の、5〜10歳くらいの子供たちがいた。
 シャマルは、キャンピングカーをパビクの前で停める。
 後部座席から降りてきたガベイジの周りを、子供たちは一斉に取り囲んで、
「お屋形さま!」
「お屋形さまあぁぁ!!」
 パビク以外は、みんな泣き出してしまった。ガベイジは、そんな子供たちの背中をなでながら言った。
「パビク、モイジ、コンテロ、シャンスラン、ママルメイ・・・無事だったか、おまえたち・・・」
 パビクは、それに応える。
「あの、おばさんのスイーパーが、オイラたちを解放してくれたんだ」
「なんだと!?」
「パンとか、当面のメシもくれた・・・オイラたちはブロンズだけど、みんなと立てこもったから、ほんとなら牢屋行きのはずなんだけど」
「これは内緒だって、おばさん言ってた」5歳のママルメイが言った。
 おばさんとは、オールギッズのことだと、トラッシュは気づいた。
「けど、父ちゃんや母ちゃんは、連れてかれた・・・」
 パビクの言葉に、すすり泣く子供たち。
「泣くな! おまえら。いつかこのガベイジが、必ずおまえらの父ちゃんや母ちゃんを連れ戻す!」
「お屋形さまあぁ・・・」
「それまでは、オラたちは家族だ! オラが父ちゃんだ! そしてヒビナが母ちゃんだ!」
「な、なんでそうなるのよ!」
 ガベイジは、トラッシュに向かって、赤い目を向ける。
「おまえの疑いは、晴れた訳じゃねえんだぞ!」
「しつっこいわね! アリバイがあるって・・・」ヒビナの抗議に、かぶせてガベイジは、
「おまえと、おまえのニセモノがいる。どっちがホンモノかわからねえうちは、疑いは晴れねえ!」
「いいぜ、それでも」
「!!??」
 トラッシュは、平然と言ってのけた。笑みさえ浮かべて。
 呆然とする、ヒビナ、シャマル、そしてガベイジ。
 トラッシュは続ける。
「疑いは必ず晴れる。なぜならガベイジは、オレがヨソ者だと一発で見抜いた。ホンモノは誰なのか、いずれガベイジ自身が見抜くさ」
 ガベイジは、愕然とした。これほどまでにオラが敵視しても、あいつは平然としている。
 あいつはオラを・・・信じてるとでもいうのか!?
「・・・バカだ、おめえは」そんなガベイジの言葉にも、
「ああ、知ってる。オレはバカだ」
 意に介さないトラッシュだった。
「・・・いつか必ず、決着はつけるぞ、トラッシュ!」
 ガベイジはそう言って、トラッシュを指さした。トラッシュも、笑顔で応える。
 ガベイジがいつのまにか、「トラッシュ」と呼んでいることに、誰も気づいてはいなかったが。

 ガベイジと子供たちは、去っていった。
 それを見送るエトワが、トラッシュの手を取り、言った。
「ガベイジとも、友達になれるかな?」
「なれるさ。いや、もう友達だ」
 日が傾き始めた。ガベイジたちの影が長く伸び、名残を惜しむかのようにトラッシュたちに届く。

     ★     ★     ★

 ゴールド階層、スイーパー本部ビル143階。キリィ・キンバレンのオフィスに、メイペ・シノリは帰っていた。
 キリィの目の前に立つメイペの姿。キュートなファッションは、あちこち破れ、盛大に汚れにまみれていた。チョコレートブラウンの革ブーツには、削ったような擦り傷が入っている。
 顔を伏せたままで、メイペは、キリィに向かって言った。
「イリーガル追跡の任務、つつしんで拝命いたします」
「・・・そうか。よく決心してくれた。頼むぞ」

 退室するメイペを見送ったキリィ、その頭の中に、いつもの舌足らずな少女の声が響いた。
『ふふん、すべてが予定した結果ってワケ? こうもシナリオどおりだと、怖いわー』
『あの事故まで、わたしが仕組んだ訳ではないぞ?』
『マジ!? じゃ、ふたりの出会いが命がけなのって、偶然なの? いやぁん、ドラマチック過ぎー!』
『運命を、意のままに操れると思ったわたしが、あさはかだったとでもいうのか・・・』
 キリィは、なにもかも計画どおりだったにも関わらず、いやな予感を禁じえなかった。

     ★     ★     ★

 スイーパー宿舎、メイペは自分の部屋に戻ってきた。
 ドアを、ガチャリと閉じると、部屋は薄暗く、間接照明だけが灯されていた。
 メイペは、しばし立ちすくんでいたかと思うと・・・
 糸の切れたマリオネットのように、ドサッと、座り込んだ。
 両手で、自分を抱きしめる。
 ふるふると、小刻みにふるえるメイペ。
 碧い瞳が、あふれんばかりに潤んでいる。
「やだ・・・わたし・・・わたし・・・」
 すると、湖のように澄んでいた碧い瞳は、急激に輝きが潜め、スチールブルーのような、冷たく硬質な金属を思わせる。
 少女の、ふるえる頼りなげな細い声が、とつじょ、低く固い響きに変った。
「トラッシュくんを・・・欲しがってる?」

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>>>第2章第8話へつづく。
次回「階層の虜囚」

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